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オール・ザット・ブリーズのBaadのレビュー・感想・評価

オール・ザット・ブリーズ(2022年製作の映画)
4.5
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたインド映画。

大気汚染の酷いニューデリーで猛禽類(主にトビ)とヘビなどの救助と治療に当たるNPOを運営している兄弟の物語。最初は地下室で治療を行っていました。

イスラム教ではトビに餌をやることは尊い行為らしいのですが(インド及びその周辺のムスリム限定なのか、一般的にそうなのかはちょっと気になった)、大気汚染が酷いニューデリーでは、そのトビ(black kite)が飛べなくなって落ちてきてしまうそうです。トビは湿地に運び込まれるゴミなども食べ環境の浄化の一端を担っているのですが、その食物も当然のことながら汚染されています。

昆虫、鳥、そして人間。すべての生き物に影響を及ぼす環境汚染。
一方で、まるで民族浄化のような少数派に対する暴動も首都では後をたたず、襲撃の対象になっている情報の下、家族を親戚に預けたりもします。
その中でも治療を続ける兄弟。兄は奨学金を得て米国に留学。

NPOも治療院を開くのですが、暴動の影響か、街はシャッター街と化していきます。

分断された住民や動物たち。
けれども、皆呼吸しなければ生きていけず、そのことで生き物は繋がっています。

NGOの兄弟はイスラム教徒ですが、呼吸することについての教えはヒンドゥー教にももちろんあり、ひょっとして汎インド的な思想なのかもしれません。

静かですが、これはすごい映画なのかもしれません。

最上のヒンディー映画にしばしば見られる娯楽以外の要素は全て含まれていてそれが調和している作品です。

2023年のアカデミー賞はインドから三つの作品がノミネートされていますが、それぞれがお互いの作品を説明しあっているのが面白い。

『RRR』のビームは部族民で、ラームと共に首都デリーで圧政の元で分断を乗り越える物語ですが、『エレファント・ウィスパラー:聖なる象との絆』の夫婦も部族民で、親から逸れた仔象を育てる特殊技能を持ち、それによって自らも癒されています。この映画の兄弟はおそらく親の代にパキスタンから移住してきて、デリーに住み、大気汚染と多数派(おそらくはヒンドゥー至上主義者)による暴力にさらされながらも、在留許可を得て環境を守るため静かに戦っています。

私は三本の中ではこの作品が一番受賞可能性が高いように感じたのですが、どれも現在の世界に関わる大切な視点を提示していると思いました。

それにしても、どんなに自然環境が悪化しても空を飛ぶトビを眺めるのは楽しいもので、心がふわりと解放されます。
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