KnightsofOdessa

Limbo(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Limbo(原題)(2023年製作の映画)
3.5
[オーストラリア、オーストラリア、未解決事件によって時間の止まった人々] 70点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。アイヴァン・セン長編七作目。ヤク中の刑事トラヴィスがオーストラリアの田舎町にやってくる。20年前に未解決になったアボリジニの少女シャーロット・ヘイズの失踪殺人事件を再捜査するのだ。20年前の捜査は白人警官によって行われたことで、人種差別的な決めつけによって無駄な捜査に時間を費やしてしまった上に、小さな町の人々の口を余計に閉ざさせてしまった。トラヴィスの訪問に誰もが渋い顔をする…と思いきや、全員が結構早い段階で心を開いて何でもフレンドリーに喋ってくれるので、緊張感のないインタビュー映画みたいになってる。見た目は(作中でも言われている通り)ドラッグの売人みたいなトラヴィスだが、自白強要とか決めつけ捜査とかはしなさそうというのは納得した上で、信頼関係作るの早すぎね?と。ただ、全員が互いを知ってるというコミュニティでは、こういう無害で口の固い異邦人という存在にこそ色々話せてしまうということはあるのかもしれないとも思えてしまうのは、主演サイモン・ベイカー(嘘でしょ!?全然気付かなかった…)の上手さか。映画はそこを違和感なく勧めながら、事件以降時間が止まってバラバラになっていた家族を、トラヴィスが繋ぎ合わせていく。

原題"LIMBO=辺獄"とはこの町の名前であり、この土地が文字通り"原罪で死んだ善人の魂が留まる場所"であり"忘れ去られた場所"でもあることを指し示している。人口密集地以外は荒涼とした砂漠と、人々が僅かな日銭を目当てにオパールを掘り返した穴で構成されていて、西部劇的な構造をロケーションでも補っていく。また、全編がコントラスト強めなモノクロ映像なので、夜や暗闇の切り抜き方が上手いシーンが散見される。特に終盤で洞窟の中に車を発見するシーンのライティングの美しさは異常。これは無限にシリーズ化できるタイプの作品では?
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