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パスト ライブス/再会のトシのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます


4月はほんと映画を観られてないです。気になる作品もあるのですが、他のことに時間を費やしておりー。それはまた改めて4月のまとめ記事に記載したいと思いますが、そんな中で観てきたのがこちらの作品です。これは選択して良かったです。よくありそうな物語ですが、語り方がとても上手で、一つ一つの場面が丁寧に作られており、とにかくラスト5分は、なかなかの名場面と言っていいと思います。

🔳生まれ育った故郷、言語というものが距離も時間も縮めてしまう

小学6年生の同級生、女の子ノラと男の子ヘソンの24年越しの恋物語。幼い頃に仲の良かった二人ですが、ノラは両親の都合でカナダへ移住、そして今はアメリカのニューヨークに住んでいます。離れ離れになった二人が、あるきっかけで12年後にリモートで会話するように。そこまでは、なんとなくよくある展開なんですが、さらに12年後、ヘソンがノラに会いにアメリカにやってきてからが見どころでした。

この映画は、24年の時を経て36歳、もう立派に大人になった二人が再開するここからが素晴らしいです。ノラはニューヨークで既に作家のアーサーと結婚しており、3人の関係がドラマに緊張感をもたらします。欧米文化に生きるノラと韓国人のヘソンの対面。ハグをしてくる彼女にとまどいを隠せないまま背中に腕を回すヘソン。距離のある二人が徐々に韓国語で打ち解け子供の頃に戻って心を弾ませていく。

🔳緊張感ある中、ノラとヘソンの関係が微妙に変化していく

ガタガタ走るメトロ、グルグル回るメリーゴーランド、ザワザワと航跡を残すフェリーなど、ニューヨークの風景が二人の感情を代弁するかのよう。また、最初はヘソンひとりの記念写真が、二人の自撮りになるなど、関係性が微妙に変わっていくあたりが本当に巧いです。でも、二人の手が触れ合うことはないのです。ヘソンが韓国へ帰る夜、ノラは夫アーサーと三人で食事する機会を作ります。

きっと、二人だけで会ったらどうなるかわからないという不安があったのではないかと。バーへ行った三人は夜通し語り合うのですが、会話は次第に韓国語だけになり、ノラとヘソンの世界に。ここの二人の24年間の気持ちを総括するような会話が心を打ちます。分からない言語で話をされるのも嫌だと思うのですが、弱気なアーサーがノラを信じていることも分かるんです。そして、ここのキャメラワークが実にいい。

🔳過去と未来、男女の感情の揺れを映画的に描ききった秀作

そして、クライマックス。アパートにアーサーを残し、ヘソンをタクシーまで送り出すノラ。アパートの玄関から歩道を歩いていく二人の姿をずーっと左手への横移動で追いかけるカメラの緊張感。さあ、どうなるんだろう。やってくるタクシー。ここで、ヘソンの脳裏に子供の頃の記憶が、一瞬、蘇るんです。びっくりしました。そして、、、ここからは観てもらうしかないです。見事な幕切れで、実は最後5分はワンカットの長回しなんです。

生まれ育った韓国や言語への郷愁もあったのかもしれないですね。泣き虫ノラ・・か。夫婦というもののあり方にまで踏み込んだラストに、もらい泣きしました。過去と現在の間で揺れ動くノラ。過去の思い出を大切にしながらも、人は後戻りはできず、今から未来にしか生きられない。〝もしも〟はない、それが人生なんだっていう苦みですね。このラスト、意外と全員に対してハッピーエンドで後味は悪くないです。


英語の話せない韓国人と、韓国語が話せないアメリカ人、それを間に入り通訳する韓国系アメリカ人というところの設定も生きてました。単なる三角関係の話にあらず、グリーンカードの問題とか、さりげなく移民の方の抱える悩みも描かれていて、奥の深さもある作品だと思います。お互いが知らない12年の月日の間にある話の省略の効かせ方もよく出来てます。

ノラを演じたグレタ・リーの魅力、カメラ、音楽の相乗効果もあり、オススメ。まさに、袖すり合うも他生の縁(イニョン)、です。

✴︎ずっと過去の思い出の中に生きてきた男性と、先に進んでいる女性の関係はどことなく新海誠の「秒速五センチメートル」を想起させます。
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