デニロ

パスト ライブス/再会のデニロのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

予告篇に生理的な嫌悪感を覚えたので絶対に観ることはないだろうと思っていたのですが、信頼する人たちが座談形式の映画批評で取り上げていたので、いとも簡単に絶対を取り消しました。でも、黄金週間の空き時間に観たのですけれど。

12歳の泣き虫の女子。ずーっと一番だった学校の成績が今回は二番だった、とぐずぐず泣いてしまう。今回一番になったのは幼馴染の仲良しの男子。僕はいつも二番だけど泣かないよ。それが悔しいのよ。父親は映画監督、母親は画家の知識階層で、今度、両親がカナダ/トロントに移住することを決意した。女子も物語を書くことが大好きで、狭い韓国にゃ住み飽きた、世界に出てノーベル賞を貰う、と屈託はない。でも、韓国での思い出にいつも二番の男子とデートしたいと。

24歳。トロントからアメリカ合衆国/ニューヨークに移住した女子/ノラは劇作家を目指して大学で学んでいる。ゼミで習作が評価されて気分は上々。ある日、母親と知り合いを話題にしていると、不意に韓国時代のあの男子のことを思い出して、彼なんて名前だったっけ?なんて母親に聞いている。年月はあまりに早く移ろう。名前を検索しているとヒットして、え?彼/ヘソンわたしのこと探しているみたい。移住してから名前を変えているのよ。わたしはここよ、と連絡して、ある日スカイプでお話しする。少しばかり照れ臭いけどいい感じじゃないのさ、そう思う。ヘソンも兵役を終えて大学に入学したそうだ。トロント時代の話を話聞かせる。いつもひとりぽっちで泣いてばかりいたけれど、ソウルじゃいつもヘソンがそばにいて慰めてくれたわね、でも、こっちじゃ泣いていても誰~れも注目してくれないから、・・・・それから泣くの止めたわ。♬Ah 泣かないで MEMORIES 私はもっと強いはずよでもあふれて止まらぬ涙はダイアモンド♬(瞳はダイヤモンド/詞:松本隆)だって、今はピュリッツァー賞が欲しいんだもの。だから、勉強に集中したいの。連絡を取り合うのこれで最後にしましょう。そんな言葉をヘソンに発して焼き直しの話ばかりしている自分を振り切るのです(きっぱり)。そして、モントークでの選ばれし作家の卵の集まる合宿でアーサーに出会うのです。

うわっ。またフラれてしまった。ソウルとニューヨークじゃ話にならないか。せっかくインターネットという文明の利器でノラとめぐり会えたというのに/言いたいことなら あなたには/あとから あとから あふれてる/私、意外と おしゃべりだわ/目と目で通じ合う そうゆう仲/・・・だったはずなのに、ノラの言葉に/無言・・・・いくじなしね 無言・・・・・淋しがりね/( MUGO・ん・・・色っぽい/詞:中島みゆき)別れ際、精一杯に今度会おうと言っていたけれど、・・・・・今度、今度といって今度があったためしはないのだよ、ヘソン君。

36歳。5年前アーサーと結婚してニューヨークで暮らすノラ。ヘソンが仕事でニューヨークに来るという。24年振り。アーサーに伝えると、/君に会いに来るんじゃないの?13時間かけて君に会いに来るんだ、僕に勝ち目はないね。だって君の寝言はいつも韓国語だぜ。僕なんか涙のクラウンだよ。/分かってるじゃないの、きっとそうよ。わたしも会いたいし。でも、/仕事で来るのよ。/そう言っておく。自由の女神、摩天楼、ブルックリン・ブリッジ・パークのメリー・ゴーランド。恋人たちの予感。俗っぽいけど24年の歳月がぐるぐる回っている。/彼はどうだった。/大人になって普通に仕事をして普通の生活をして両親と暮らしている、そんな韓国的な男子よ。普通に魅力的だわ。/惹かれたの?/NO./

ニューヨークを離れる前に三人で会いたいとヘソン。バーのカウンター。東洋人と白人。白人男子と東洋人女子がカップル、アジア人男子は女子の兄弟?東洋人同士がカップルで白人男子は彼らの友達か観光ガイド?今夜中の3時だぜ。変な組み合わせだ。バーの客が三人の品定めをしている。会話は韓国語。ノラとヘソン、アーサーは所在なげだ。時折ノラがアーサーに通訳して聞かせているけれど。わたしだったら居たたまれなくて席を立ちます。大人げないっていったって、それが戦いですわ。

ヘソンをアパートの近くのUberまで見送りに行くわ、ノラはそう言って部屋を出る。微妙なこころもちのアーサー。ノラはヘソンに聞く。/なんでわたしに会いに来たの?/性悪にもほどがある。そんなこと言わせてどうするのよ。/今はどんな賞が欲しいの?/トニー賞。/相変わらず強気だわ。冒頭のシーンからアーサーに乗移っているわたしは、部屋を出てアパートの前の階段に腰掛けてノラが戻って来るのを待ちます。煙草を吸い終わるまでに帰ってこなかったらノラは彼奴と一緒に韓国に行ってしまうとかなんとか後ろ向きな思いで奈落に落ちていく。しっかりしろ自分!でも、彼女は戻って来た。行ったわ、と言ったっきりわたしの肩で泣きじゃくってしまう。ニューヨークで泣いても構ってくれる人がいた。今は素直にノラはそう思う。

このシーンを観ながら萩尾望都の「10月の少女たち」のフライシ―の揺れを思い出した。/・・・カフェにいったり 自分の服をえらんだり リボンを買ったり…そんなこと全部にさよなら 世界がいつもわがままなあたしひとりだった時代に さよなら・・・/

でも、アーサーよ!自分よ!ノラの咽び泣きに浸っていてはいけません。ここでノラの言葉を思い起こさねばなりません。/わたしを知らないの?男より稽古が大事/ああ、知ってるよ。わたしもいつかヘソンになるのだよ。君は去って行く人。イニョンで会おう。

・・・・・この作品を観た数日後、昔のおもい人から電話があった。掛け直したくなかったけど思い切って。/みんなで集まろうって言ってます。来てくださいね。/だって。どうしよう・・・・・・。
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