corzz

パスト ライブス/再会のcorzzのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

傑作だとか名作だとかヒットするとかしないとか、通俗的な評価軸で測られたくない映画。その人の恋愛観や人との関わり方でおそらく評価が分かれる。

さりげないが計算されたカメラワークが印象的。映画の視点に観客の視線がだんだんと同期して、映画の内部に観客の身体が溶け込んでいくかのよう。
シーンを繋ぐ短いカットが抒情的で、ソウル・ライターの写真を連想させる。薄曇りの空、朧げな昼の光、水たまりに映る雑踏、群青色の夜の街ーーー。主人公二人にとって重要な記憶が穏やかな陰影とともに切り取られ、完璧な過去が理想的な形で映像に落とし込まれている。

セリフに無駄がなく、日常会話のうち重要な会話だけが自然に抜き出され、役者の沈黙や視線や仕草のひとつひとつがセリフの背景情報を補完している。言葉の文字通りの意味を超えて、言外に伝わる情報が明確にイメージとして観客の脳内にのしかかるような演出も白眉。
劇中、Skypeで画面越しとはいえ主人公二人が十数年ぶりの再会を果たすのだが、そのビデオ通話中に男性主人公が「会いたい」「会いたかった」と漏らすシーンがある。顔を合わせて話している最中に発せられたそのセリフの可笑しさに、言われた側の女性主人公はやや面食らってしまうのだが、その場は一瞬、笑い飛ばせないような雰囲気に包まれる。それは何気ないひと言が持つ言外の意味の重みであり、相手が返事に窮してしまうような本音を漏らしてしまう余裕のなさである。覚えがあるだけに妙にリアリティを感じて記憶に残った。

特筆すべきは、終始一貫して、「イニョン/縁」というひとつのモチーフで物語をまとめる監督の手腕である。袖振りあえば他生の縁というように、ありふれた数千数万の縁の重なりの中に人は生きていて、その中のひとつの縁がどれだけ特別であっても、運命のめぐり合わせ次第では結ばれない縁にもなり得る。特別な縁で結ばれているかのように見える主人公二人の縁ですら、今世においては結ばれないことを本作は悲観するでもなく肯定する。いわゆる運命の恋言説やロマンティックラブ幻想に、ある種達観して抗う視点の提供が新しく現代的で、いまの時代感覚を反映しているかのようにも思えた。

主人公二人が安易に駆け落ちなどしない代わりに、今世での永遠の別れを予期しながら来世での再会に期待するラストが素晴らしかった。お互いがお互いに対して唯一無二の縁を感じつつ、今世限りの運命を受け入れる形で袂を分つ物語の落とし所が至極真っ当で理性的に思えた。個人的には、かえってその決断が十分すぎるほど理解できるだけに、やり直しの効かない人生を生きることのままならなさにどうしようもなく切なくなるのだった。
corzz

corzz