回想シーンでご飯3杯いける

ナイアド ~その決意は海を越える~の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

3.9
キューバからフロリダに至る180kmにも及ぶ外洋を、64歳にして53時間かけて泳ぎきったマラソンスイマー、ダイアナ・ナイアドの実績を描いた作品。

監督のエリザベス・チャイ・バサヒリイーは、これまでにタイの巣窟で起こったサッカー少年チーム遭難事故を記録した「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」等、ドキュメンタリーを専門に手掛けてきたようなのだが、本作ではアネット・ベニングとジョディ・フォスターという、大女優を起用し、新規映像を中心に構成している。

今回の映画化で大英断だったのは、ナイアド本人ではなく、ジョディ・フォスターが演じるコーチの視点で描かれている事。泳いでいる最中のナイアドはゴーグル等で完全防備状態で、喋る余裕は当然無いので、今回はコーチの台詞やリアクションによって、ナイアドの心情変化を読み取る構図で仕上げられている。この点で、ジョディの演技は申し分なく、本作に於ける真の主演が彼女である事を理解できる。

ただし、本作の中では数名のコーチ&スタッフで構成されていたクルーも、実際の記録達成時には40人以上で構成されていたらしいので、これを観て「事実を知った」と早合点する事の無いように(ジョディが演じる人物が実在していたかどうかも不明)。あくまで映画は映画として、その演出を含めた作品を楽しむスタンスを忘れないようにしたい。

もうひとつ良かったのが、主人公が泳ぐ時に脳内プレイリストを作るという下り。映画内ではそれが実際の音楽として挿入される。1960年代に青春を過ごし、同性愛者でもある彼女が好む音楽は、当時のヒッピー文化から生まれたものが中心。序盤の緩やかなフォークソングから始まり、徐々にロック寄りにヒートアップしていく。嵐の日に流れるジャニス・ジョプリンの荒々しい歌のハマりっぷりは、感動を通り越して大笑いしてしまった。

ダイアナ・ナイアドという人物は相当にわがままで、実際に周囲にいると好きになれる自信は無いけど、それが自己実現を重視するアメリカの文化なのだという事を強く感じる。とてもパワフルな作品だった。