マインド亀

終わらない週末のマインド亀のレビュー・感想・評価

終わらない週末(2023年製作の映画)
4.0
「止められない終末」に放り投げられて体感せよ!

●いろいろと賛否はあるみたいですけど、私は好きな映画です。この手の作品は、どこに映画的快感を求めるか、ツボが人それぞれなので一般的な評価がわかれがちなんですよね。
とにかく、終わらない週末、というより、止められない終末。
次々と終末を暗示する奇妙な減少を登場キャラクターの身になって体感することにゾクゾク感を感じられる人は、楽しめる作品なんだと思うんです。

●例えばシャマランの『ノック 終末の訪問者』で次々と起こる大災害。
これは全てテレビでのニュースで見せられるんですが、この大災害を連続で主人公自身の経験として物語が作られるのが本作なんですね。こういう話を作る時に、状況や原因が説明されきってて、俯瞰した状況で物語を語ると、一気にただのディザスターものになってチープ感が出るし、緊迫感がなくなると思うんです。『ノック 終末の訪問者』でも、災害を知るのがテレビ上だとしても、全く訳が分からない状況が主人公たちにふりかかっているのが面白いわけですが、本作は完全に情報が遮断された状況で、眼の前で飛行機が落ちたり鹿が大群で押し寄せたり衝撃波で窓ガラスが割れたりして、意味不明の状況に放り投げられるのが面白いと思いました。その中でどういう行動を起こすのが正解なのかを、主人公たちと同じ気持ちで体験できるんですね。
情報が一切入らない中で、何かが何かのデマをばらまいていたり、人づてに聞いた情報に頼ったり遮断したりする。これって、震災の時に携帯に電波が入らない状況で被災地のみなさんが体験した状況ともオーバーラップしますよね。面白いというのは語弊がありますが、本作のディザスター体験の中で我々が感じる最もリアルな部分がこういうところだと思うんですよね。
例えばトム・クルーズの『宇宙戦争』における、トライポッドが初めて襲撃してきた時の訳の分からなさ、『シン・ゴジラ』においてゴジラが現れるまでの謎のトンネル事故、漫画『ドラゴンヘッド』における序盤の横転した新幹線で目覚めるシーン、みたいな、一般市民が巻き込まれた序盤の意味不明な災害体験が、最もリアルで好きなところだと私は思うんですよね。一方で、話が動き出すと、すぐに政府関係者の視点になったり、災害の正体が現れたりして、「なんだ、そんなことか」って感じると一気に普通の映画になっちゃう。
本作はその意味不明な不穏な事態の連続で物語が最後まで突っ走るのですが、私にとってはそれが非常に心地よいんですね。

●本作は人間ドラマが弱いとも言われることがしばしばですが、私にとってはこの状況を楽しみたいわけで、ここにもっとビビッドな人種間断絶とか家族の崩壊のドラマなどが絡みすぎると逆に状況にのめり込めなくなるので、本作くらいのどっちつかずなドラマが心地よいと感じます。
反発していたアマンダとルース、アマンダとGHスコットも、解り合えるようでわかり得ないし、クレイとルースも仲良くなったと思えばクレイは「私とヤリたがっている」と父のGHスコットに告げ口したり、アーチーはルースに一方的に欲情してるままだし、その割にGHスコットはアーチーを助けるために奔走してくれるし、なんだかグラデーションが曖昧な人間関係がうごめいているのが、リアルはこんなもんだよな、と思わせてくれるし、非常事態だからこそ人間関係に整理がついていないのが普通なんじゃないかと思わせてくれる気がします。とにかくローズはドラマ『フレンズ』の最終回が見たくて仕方がないんですが、これが思わぬラストに結びついていくのが、キレが良くてめちゃくちゃ好き。これのお陰で、「あ、この映画ってブラックコメディだったんだ!」って思わせてくるんです。
ちなみに『フレンズ』の最終回は、6人がルームシェアを解消させてそれぞれの道を歩む感動的なラストなんですが、本作は逆に6人がこれからルームシェアをするんじゃないかと示唆するラストなので、その対比も見事ですね。

●とにかく本作で描かれるディザスター表現がめちゃくちゃ面白いのもあって、余計にIMAXとかで観たい、配信じゃもったいない映画だと思いました。タンカーが浜辺に突っ込んでくるシーンや、『地獄のラ・ラ・ランド』と評されるテスラの自動運転車の超玉突き事故もフレッシュでおもしろい。そして崩壊した世界で、謎の何者かがヘリで何かをばらまいているところも不穏すぎて不気味。これらも情報が遮断された世界だからこその恐ろしさであって、全然説明的でないのがその良さを引き出してると思います。スコットが妙に政府関係者に近い人物っていうのも良いバランスだと思います。
観る人によっては、「謎にし過ぎ」とか「で、結局なんなの?」になるかもしれませんが、私は本作の、いろいろと考察できる状況のほうが好みです。
是非、Netflix伝統の終末映画の最新形をお楽しみいただければ、と思います!
マインド亀

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