耶馬英彦

トランスフュージョンの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

トランスフュージョン(2023年製作の映画)
4.0
 オーストラリア映画というと2022年に日本公開された「ニトラム」を真っ先に思い出す。父親の放任主義と母親の権威主義によって精神が崩壊し、無差別乱射事件を起こしてしまった青年を描いた、実話ベースの作品だ。
 本作品でも、同じように家族関係の崩壊が描かれる。コミュニケーション障害の父親は、軍人として暴力に頼ってきた生き方から脱却できない。事故で生き残った負い目を覚えながら生きている息子は、思春期を上手く過ごせずにいる。
 軍隊時代の友人も、似たようなもので、家族関係が崩壊し、唯一の能力である暴力を使って生きている。つまり裏社会だ。そしてギャングたちが登場する。世界観の乏しいチンピラ連中だ。共感するところはひとつもない。

 そういう訳で、登場人物の誰にも感情移入できないまま、物語は進んでいく。アクション映画ではあるが、主人公と一緒になってピンチを乗り切るというのではなくて、オーストラリア社会の病巣を見せつけてきた感じだ。そういう意味では、能天気なハリウッドのヒーローものとは一線を画する。なんだか割り切れないまま終わるのも、悪くない。

 エンドロールが「主要登場人物」と「脇役」に分かれて流れていたのには驚いた。かつての個室俳優と大部屋俳優みたいな分け方みたいで、格差や階級を堂々と表示しているみたいだ。
 日本映画のエンドロールが「主演」と「助演」に分かれて流れることは先ずない。むしろ「友情出演」みたいな意味不明の肩書が出たりする。あちらこちらに忖度して八方美人を心がける日本と違って、実態をそのまま表現する訳だ。ある意味、大らかであり、爽快でもある。
耶馬英彦

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