マインド亀

インフィニティ・プールのマインド亀のレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
4.5
旅の人殺しはクローンに掻き捨てて、夏。

●『インフィニティ・プール』観てきました!『パール』と同じく女優崩れを演じきったミア・ゴスの極限まで振り切った怪演が素晴らしく、大満足の内容でした。ミア・ゴスはホラーやサスペンスのミューズになってしまってるなあ。どうやって調理しようか!って創造性を掻き立てられる女優なんてすね。今回は手淫と授乳というパンチの聞いたセクシャルコミュニケーションを発揮!なかなか振り切っちゃってます。

●監督はデヴィッド・クローネンバーグの息子、ブランドン・クローネンバーグ。お父ちゃんは身体の変容による精神の進化を作家性としてもっとも監督ですが、ブランドンは環境の変化による内面の変容を描く感じの監督なんですかね。クローンを扱うことによって、自分がオリジナルなのかどうかというサスペンスなのかと思いきや、描きたいところはまるでそれじゃないわけなんですね。

●私はこの映画を最後まで観て、登場人物の行動原理は「旅の恥は掻き捨て」という言葉の極大解釈なのだと理解しました。
「旅の恥は掻き捨て」という言葉は本来、「見知らぬ土地で風習や慣例の違いから思いがけない間違いをしたとしても、恥ずかしがる必要はない。」という意味だったはずです。しかしながらいつしか、「旅先では誰も自分を知らないし、長く滞在するわけでもないのだから、恥をかいてもその場限り。」と都合よく解釈されるようになってしまいました。ミア・ゴス達のこの行動は、「旅の恥は掻き捨て」の解釈を「旅先ではどんな非礼も犯罪行為も許される」と更に拡張したものではないでしょうか。
映画終盤でこのリゾート地を離れる帰路のバスの中で彼らは、子供の心配をしたり、振込の心配をしたり、仕事のことを考えたり、日常生活では分別のある人間のように描かれており、いかに旅先の非日常感は、人の気持ちを大きくし、大胆な行動をさせてしまうのか、人間の本来の欲望をむき出しにさせてしまうのかと考えさせられました。大学サークルのメンバーらが、合宿先の旅館で障子を破って顔を出したり、胴上げの勢いで天井を破ったりする乱痴気騒ぎを起こしたのと近い感覚ですね。ただし彼らの場合はクローンがその行為の罪を背負ってくれるわけではないですが。

●最終的にただ一人家に戻ることなく、雨季のリゾート地に戻り雨にただただ打たれるジェームズは何を思うのか。海側の水面とinfinity(無限)に続く絶景プールを眺めながら、人間の狂気の際限の無さに打ちひしがれているのかもしれませんね。

●今回は撮影がめちゃくちゃいいですよね。特にドラッギーなシーンはいろんな工夫をしてチカチカと画面をスパークさせてます。なんだか『オッペンハイマー』よりもいい感じの出来かもしれません。
また、何と言ってもあのマスクですよね。『武器人間』監督のリチャード・ラーフォーストらしいです。どうやら入場者特典でお面もらえたらしいですが、私の回では無かったです。ジョジョの石仮面を有機的にエレファント・マンのような感じにしたようなマスクです。なかなかエクストリームな民族衣装!

●兎にも角にもレビュー得点があまり良くないので、あえてここは高得点をつけさせていただきます!絶対に観てほしい一作です!めちゃくちゃハマりました!
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