前髪メガネ

みなに幸あれの前髪メガネのレビュー・感想・評価

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
4.0
人間の悍ましさ、社会のグロテスクさが本当に怖い。。

祖父母が暮らす田舎へやって来た看護学生の“孫”は、祖父母との久々の再会を喜びながらも、祖父母や近隣住民の言動にどこか違和感を覚える。祖父母の家には“何か”がいるようだ。やがて、人間の存在自体を揺るがすような根源的な恐怖が彼女に迫り……。

田舎の悪習や気狂いババァ系のホラーを想像していたけどもっと深みと嫌みがあり、観進めるに連れこちらまでその説明が成り立たないはずの幸せのロジックが本当にそうなのかもと思わせてくる感じ、とても嫌だった(良かった)。

若手女優やアイドルを主役にしてただ怖がっている様子を第一にしているJホラーは多いけどそうではなく若手ではあるけど実績をしっかりと残している古川琴音を主演にしたから安心感もあったし、作品のキャラクターにとても合っていたと思う。
ただ恐れ叫ぶだけじゃなくて変化していく心情で顔つきや雰囲気が変わっていくから物語として面白くなっていった。

そして、この物語の最大のテーマでもある幸せ。現状に不満もなく生活していた主人公の知らない裏側でその恩恵の根源を知るのだけど、一見グロテスクで根拠はファンタジーなのだけどそこに何故か説得力を掴ませられる。そこに現実世界での真実が織り込まれているからでしょう。
現実から目を背けて理想ばかり追い続けていて幸せになれるのか。
確かにそれは大きな正論で、そこに気付かずに掻い潜って幸せになれる人なんて奇跡中の奇跡的確率。
だからだいたいは現実と向き合って何かを諦めて、犠牲にして、折り合い付けて"幸せ"得ているのだろうなぁ。
本作はその幸せの為の犠牲を描いたホラー。

例えば、食事。
人間に限らず大体の生き物は何かの命を食べて生きているわけで、自分が幸せになる(生きる)為には食べないわけにはいかない。
だから日本人は「いただきます」を言う。
本作でもそこを触れたことで作品に説得力が出たし、ホラー映画なのに食事シーンが多く印象に残りやすかった。

また、さらに面白いのが、猟師のシーン。
"真実"を、知っても飲み込めずに抵抗していた孫も間近で鹿猟を見ても横目でスルーな温度差。
あのシーンによって人間のモラルという名のエゴが表現されていた。
そういった自分達が折り合いつけている日常が挟まってくる事で作中のグロテスクな"真実"に納得がいってしまう。

と言うかホラー映画だからフィクションの形をしているけど、実際には全く同じような事が現実でも遂行されているのが何よりも怖い。
昨年末から話題の女性の搾取や最近だと作品権利の搾取など。
1番わかりやすいのは賃金や税金、年金のお金関係じゃないでしょうか。

形は違えどやっている事は全く一緒。
怖い。

清水崇プロデュースとあっても最近の監督作品は一周二周回った感のホラーばかりだったので、今回はどうだろうと思ったけど、次世代育成としてのプロデュースなら大成功だと思う。
ここから新しいJホラーの風が吹くと思うと下津優太監督の今後の作品に期待です。
前髪メガネ

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