やむちゃ

みなに幸あれのやむちゃのネタバレレビュー・内容・結末

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

備忘録
2024.1.25 シネリーブル梅田で鑑賞。

昨年予告編を見てから期待していた作品。
主演は古川琴音、監督は下津優太で本作が長編デビューとのこと。
角川主催の日本ホラー映画大賞の大賞受賞作の短編を膨らませたらしい。
短編を長編にスケールアップさせるのはサム・ライミの「死霊のはらわた」と同じという点も期待が膨らむポイント。ただ過去には、長編にするのに無駄なエピソードを無理やり入れてダメになった作品もあるので、諸刃の剣でもあり若干不安もあった。

東京で看護師を目指している主人公(古川琴音)が、久しぶりに祖父母の家を訪ねたことから起こる恐怖を描いたお話。

うーん…光るところもあるが、惜しいところがいっぱいの作品だった。
祖父母や周りの人間、村の不気味さはうまく描かれている。M・ナイト・シャマラン監督の「ヴィジット」のような雰囲気が漂う。

前半の"何かがおかしい”という感じは良い。
祖父母の奇行がエスカレートしていくにつれ、「早く両親が助けに来てあげて!」と感情移入してしまった。
やがて目と口を縫われて塞がれた謎の男性を助け出し、フラフラと農道を歩くところに、念願の両親が登場。
良かった…と思ったのも束の間、両親は"あちら側"だとわかり、観ている側もどん底に落とされたような気分になる。
(両親が味方ではないとわかるシーンは、両親の車を見つけた主人公が喜んでいると、急にスピードを上げて生贄を跳ね飛ばす演出にした方がインパクトが大きく、ショッキングにできたと思う)
ただこの辺りが気持ち悪さのピーク。
このあと生贄?の意味がわかるのだが、後半は展開が単調になり、ちょっとトーンダウンしてしまった印象がある。
主人公が喚いて家を飛び出すが、結局何も解決せずに家に戻る。再び主人公が喚いて家を飛び出すが、やはり何も解決せず家に戻るという展開が繰り返され、何も進展せず盛り上がりに欠けた(家族を見捨ててでも逃げ出せばいいのにと思ってしまった)。

また伏線だと思っていたものが回収されないままになってしまっている箇所が多かったのも残念だった。
観客の判断に委ねるシーンはあって良いし、ミスリードもあって良いと思う。
しかし、気持ち悪さや不気味さを強調したいだけで、特に意味がなく最後までほったらかしで終わってしまう箇所がいくつもあったのは、ちょっと気になった。

後半に行くに従って主人公が壊れていくが、できれば一度助かったと思わせて、さらにどん底に突き落とす展開であればもっと盛り上がったのにと思った。

そもそも生贄の因習は、あの村(地域)特有のものなのか、日本中で普通に行われているという設定なのかがハッキリしないので、恐怖のポイントがボヤけてしまったのも残念(村の因習という設定にして、なんとか脱出を試みるという展開の方が個人的には好み)。

古川琴音の熱演は素晴らしかった。彼女の台詞回しは、その声量や声質から一見棒読みのように感じるが、観ていくと実はよく考えて演じているのがわかる。今作でも気の小ささや、気持ちの優しさが伝わる繊細な演技をしていたと思う。
その逆だったのが、祖母役の役者さん(?)で、台詞回しが下手すぎて気になって仕方なかった。無名の役者さんが多く、それは不気味さの演出にも一役買っているし、上手すぎない演技も良いと思う。が、祖母役の役者さんの演技だけは別次元で、「素人を使ったの?」とずっと引っかかりながら観てしまった。

もの凄く良い題材なのに、全体的に粗削りですごく勿体なく感じた作品だった。

…主人公の悪夢?妄想?で生贄がパンケーキ食べたい♪を踊るシーンには笑った。
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