光好尊

怪物の光好尊のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

是枝監督のほぼ一貫したモチーフは、宮台真司の言葉で言えば、「法(法律/社会/システム/ルール/規範/作法/損得/計算等)」と「法外」と言える。

約1万年前の定住社会を経た約5千年前の大規模定住社会以降、人間にはしばしば明文化された「法」が必要になった。「法」の営みの中である事件(不具合)が起きた場合、それを起こした者を同定(措定)する必要がある。これを「怪物」であると人々は言う。「法」にとって「怪物」は、システムエラーを引き起こすバグであって、これは取り除かれねばならない。しかし、人間が「法」で生きるために社会化(去勢)したとき、往々にして「法の奴隷」になる。人間はほとんどの場合、システムの中で生きていると、その中で記述されるプログラム(命令)に従って行為してしまう(現に私たちが私たちにとっての怪物を探したように)。

本作では、担任教師が「怪物」、みなとが「怪物」、母親が「怪物」、よりが「怪物」に段階的に「見える」(ニーチェの言う「パースペクディビズム」)。是枝作品“なので”担任教師が怪物ではないかもしれないと思って観れたが、これも「法の奴隷」に過ぎない。他方で、みなととよりは「法の外」にひらかれた存在でもあった。学校生活から一時離れれば、2人は繋がり、遊び、楽しむ関係になれた。

そういう意味で、誰かにとっての「正義」「正義感」「英雄」「善人」が、誰かにとっての「怪物」「悪者」「犯罪者」なのは当たり前だ。ラカン風に言えば、正義とは他者の正義である。
光好尊

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