ミーハー女子大生

怪物のミーハー女子大生のネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【あらすじ】
息子を愛するシングルマザーや生徒思いの教師、元気な子供たちなどが暮らす、大きな湖のある郊外の町。
どこにでもあるような子供同士のけんかが、互いの主張の食い違いから周囲を巻き込み、メディアで取り上げられる。そしてある嵐の朝、子供たちが突然姿を消してしまう。

【感想】
まず良かったところ。

■役者陣の演技
邦画では珍しく下手な人は端役含め殆どいないどころか、主要人物には非常に芸達者な役者ばかり。
安藤サクラはもう何て賞賛していいやら… とにかく巧い台詞運びや表情、常にピンポイントに100%の正解を出し続けていて凄い。
瑛太は中盤以降の視点変更後が巧い。
田中裕子をはじめとした脇を固める役者達も存在感あり。
若干、高畑充希を贅沢に遣いすぎな気はしましたが… 個人的に最も輝いてたのは依里役の柊木陽太君。
あの台詞の数々を違和感なく演技出来るって本当に凄い。
細かな仕草・可愛らしさ・無邪気さ・ミステリアスさを器用にこなしていて、後半は彼の演技だけを楽しんでたといっても過言じゃなかった。 (大袈裟かもですが、途中「天才やん!」とただただ感嘆してました)

■序盤〜前半
邦画にありがちな薄暗い食卓に会話の無い家庭じゃなく、明るい部屋でTVからバラエティ番組が流れ笑いがある自然体な家庭を描いていたのが好印象。
会話にユーモアがありつつテンポもよく、芝居臭さがなく、坂元裕二の書く会話劇の楽しさと安藤サクラの抜群の演技力が堪能出来る序盤〜少しずつ不穏な描写や謎が現れる前半途中までは本当に良かった。

■音楽
少し不穏な背景と切ない旋律が非常に印象的でした。

_____________

ここから気になったところ。

■校長室の写真
画角に寄る前に違和感に気付いたんですが、まさかそんな安易な演出じゃないよな…と思っていたらその通りの展開で残念。

■保利先生(瑛太)の謝罪
棒読みどころじゃない過剰にわざとらしい謝罪の言葉、会話にならない校長、テンプレのような教師達…演出が過剰過ぎて、半ばシュールなコメディやコントのよう。
あそこまで誰が見ても非常識な立ち振る舞いをする時点で、多角的な視点は成り立たない。

■飴 ←個人的に最悪
まず、あの行動が本当か否か。
『何か別の動作が飴を食べたように見えた』はありえないし、全く事実と異なる見てもいない所作を勝手に早織が記憶の中で捏造する理由も無い。
つまり『早織にだけはそう見えた』でも『早織の嘘』でもなく、『保利先生が飴を口に入れた』のは事実。
そして、いくら精神的にピークに辛かったにせよ、唯一の支えである彼女から貰った飴玉だったにせよ、いい歳の大人・社会人・ましてや教師が、あの場面・あのタイミングで飴を口に入れるなんて所作に至る訳は絶対に無い。
『僕は、こういう経緯や事情があって、あそこで飴を食べました』と理論的に説明出来ますか?
出来ませんよ。
極度の緊張やストレスなんて言い訳で納得出来るシーンでもない(子供じゃないんだから)。

以降の保利先生主観で背景や心理が多少理解できたとしても『とはいえ保護者の前で飴食うのは100%頭おかしい』と引っ掛かるので、あそこで作品全体の評価が完全に決まってしまいました。
あ、そういう観客騙しするんだ…と、嫌な気分にもなりました。

他のレビュアーで『信頼できない語り手』と捉えてる方がいますが、根本的にその手法を全く理解してない。
本作を肯定的に捉えたレビュアーもこの点に関しては論点をずらしてる方ばかりで、具体的に納得いく解釈をしている人をいまだ誰一人見たことがありません。
『そこだけは目を瞑って、他のシーンや展開を観ようよ』と思いたいものの、この映画はあのシーンをミスリードの起点に動き出しているので、到底許容出来ない。
台無しです。

■後半の展開を経ても違和感
●教室で湊が暴れるシーン ⇒あの年頃の男子の心理を考えると…何故あんな行動に出たのか?

そして
①湊が暴れたことは事実+保利先生やその場にいた生徒全員も目撃
②保利先生が湊を静止した際に偶然手が顔に当たった …何故この出来事で、学校側がことを有耶無耶にしたがるのか理解できない。

「おたくの息子さんが」と言ったらモンペ化するリスクは確かにあるが、この件については第三者の目撃者が大勢いるのに、何故そうなる?の連続。
『突然教室で湊君が暴れ出し、生徒達の持ち物を乱暴に荒らしていたので保利先生が静止しました。 その時たまたま手が顔に当たってしまったことは大変申し訳ありませんでした。 当事者の湊君と、他の生徒も大勢見ていたので早急に事実確認します。』 でいいじゃない。

●『湊が暴れた経緯』を保利先生が追及しない。 ⇒大事なことなのに?

●保利先生主観の話を経ても、前半のシーンはやはり違和感 ⇒早織への不誠実な謝罪、飴、シングルマザーを侮辱した発言…等の言動が説明つかない。
保利先生が事実確認をしてないので、湊や早織側が100%悪いと確信出来る根拠はない。
どちらかといえばその状況で謝罪を強要する学校側に対しての不信感や怒りの方が強いはず。
何故、早織に対して過剰に非常識な言動を取ったのか?
早織の感情を荒立てて学校側を巻き込み問題を大きくしたいならギリギリ理解出来るが、やはり保利先生主観で描かれた性格や倫理観からは到底かけ離れている。

●保利先生側に弁明の機会が全く与えられない ⇒「腕をひねった」場面あった?
「豚の脳」と保利先生は一度も劇中で言及してないし、耳の件含め「子供が言ってたら全て真実」というほどに捏造出来るか?
しかも決して多数派に属していない孤独な湊が。

●学校側
学校側に何かそうせざるを得ない特定の理由や過去の背景があるのかと思えば、何もない。
まだ早織と話してもいない段階で、極例なモンペをただ勝手に想像を膨らませ、劇中の過度な隠蔽や数々の非常識な言動が学校ぐるみで行われたというのは無理がある。

■猫
保利先生がハメられているようなミスリード演出でしたが、不可解。
女生徒は「猫で遊んでいた」場面を目撃し、保利先生を現場まで連れて行き報告した。
確かに、保利先生側が猫を『殺した』と飛躍し解釈したのは良くなかった。
でも、その後女生徒に再確認した際には「私そんなこと言ってません」とだけ返ってくるが…普通、あの会話はそこで終わらんでしょう。
その後の保利先生が取り押さえられる演出も過剰。

■湊
やたら言及される父親の件、生まれ変わりへの固執、髪を切ったり…あんなに裏表なく献身的で良い距離感と関係性を築く素晴らしい母親の元で何故あんなに病んでいるのか、ラストを経ても分かりそうで分からん。
また、早織がイジメだと勘違いした数々の状況証拠の真実が依里への特別な感情だったから隠したかったのは分かるけど…何で保利先生に全てをなすりつけたのか疑問。
※確か、湊側の印象では保利先生=いい人だったはずで、依里の「どうせ〜」の一言だけでそれがひっくり返るのはおかしい。
イジメの当事者生徒や架空の誰かではなく、何故保利先生を矢面に立たせたのだろう?
※あと、チャッカマンは何で湊が持ってるんだっけ?

■役者の演技力と脚本・演出が足を引っ張り合っていた印象
序盤に早織に感情移入させてから、また違う視点から捉え方が異なる展開にしたかったんでしょう。
が、安藤サクラの演技力の高さもあり、早織は主観・客観どちらから見てもまともなことしか言ってない。
また、学校側の対応を過剰な演出にしすぎたせいで、ようやく早織が罵声を浴びせるシーンも「そこだけ切り取ったら厄介なモンペ」には到底見えない。
保利先生や校長は後に印象が変わるような描き方になるものの、前半の醜態の演技が過剰に印象に残り到底印象は覆らない。
やはり前半の校長室が失敗だったのでは…

■結末
全てを語り切らず余韻を残し鑑賞側に委ねる演出は良いが、本作のラストシークエンスからはどう考えても誰にとってもあまり良い未来が見えない…

●中村獅童の件は未解決
●火事の真相も濁されたまま
●湊のその後
●保利先生のその後(個人的に1番心配) …等、未解決のことも多い。
※湊は死亡している解釈も出来ますが…

■その他
●早織は比較的頻繁に平日学校に来れるので、非正規雇用? にしては生活水準が結構高いように見えましたが…
●中村獅童側の家庭描写
●依里の学校での交友関係(味方の女生徒が何人かいたが?)
●湊の劇中以前の交友関係
●依里との交流過程で湊が家を空ける時間経過が早織側の描写からすっぽり消えている

…等、冷静に振り返ると少しずつ違和感を抱くシーンや描写がありました。

■怪物
何を指すのか?
劇中明確な『悪』は中村獅童や子供達…校長?
近い表現では、中村獅童が依里について言及した場面のみ。
そんなに巧い比喩表現じゃないし、これを言うと身も蓋もないですが…本編ってそこまで人によって捉え方が異なる話ではないはず。

_____________

役者の演技は本当に素晴らしかったんですが、ストーリーや演出がどうもイマイチ。
各場面ごとの謎がひとつずつ明らかになる展開は悪くなかったのに、ひとつ明かされる度に「なるほど…ん、いや、そうはならんやろ」の連続でした。
シングルマザーの家庭環境・家庭内暴力・イジメ・学校側の体質・思春期の子供の繊細さ・友情・同性愛…いろいろ盛り込み過ぎた印象。


第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルム賞を受賞した作品なので、やたら高尚で崇高な映画と受け取る人や映画通ぶったマウント取りも多いですが、少なくとも自分は役者の素晴らしいパフォーマンス以外あまり刺さらなかったです。
駄文長文失礼しました。
あくまでも、個人の感想です。

ストーリー 2
演出 4
音楽 4
印象 3
独創性 4
関心度 4
総合 3.5

42/2023