Kuuta

ゴジラ-1.0のKuutaのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
3.7
IMAXレーザーと通常版で計2回鑑賞。

▽総評
ゴジラパートの100点と人間パートの50点の往復で75点。浜辺美波がぶら下がるやつ、褒めている人も多いが自分はダメだった。車両を咥えた姿に「ゴジラが帰ってきた」と泣き、浜辺美波に切り替わるとうーん…とすごい勢いで感情の起伏を繰り返していた。

平成ゴジラとエメリッヒのクリフハンガーまで復活させ、ファミリー向けゴジラ映画が帰ってきた。クライマックスの選曲に明らかなように、マイナスワンとは、東宝の千両役者路線への回帰だった。

シンゴジラの次作(アニメ版なんて無かった)という「貧乏くじ」であり、差別化を図る意図は感じた。

シンゴジラは相当な飛び道具であり、シンゴジラを気に入った友人に「他におすすめは?」と聞かれた当時は「初代以外ないです…」と答えざるを得なかった。しかし今作のような内容なら、類似作は多い。ゴジラを「そこそこ面白い娯楽映画」に戻し、スタートラインを引き直す。山崎貴の役割ってこういうことだよなと思った。

例えば、ゴジラ立ち泳ぎ問題は昔から議論されてきたテーマだが、今回ネットでキャッキャとネタにされている。シンゴジラにはなかった光景が普通に嬉しい。庵野秀明も山崎貴との対談で「これならリクープは出来る、シリーズも続けられるんじゃないか」と話していた。この言葉に尽きると思う。

▽各論
・本筋はJAWSだった。銃が撃てない不能の父の再生。テーマ、機雷、船乗りの配置など類似している。ゴジラの体が崩れ、熱線の残火が空に伸びていく場面、死者の魂を鎮め、荒ぶる神を海に返す儀式のようで、敬礼もハマっていた。

・典子(浜辺美波)が表情を見せないシーンが2回ある。子供を預かった経緯を話す場面と、自宅での飲み会で敷島が結婚を嫌がっていることを聞く場面。いずれも彼女の真意は見えない。

特に後者の場面の後、典子は銀座に働きに出る宣言をし、ゴジラに襲われる原因となる。敷島は特攻回避、警備隊見殺しのトラウマに苦しんでいるが、彼の煮え切らない態度が典子まで死の世界に引き込んでいる。

こうしたゴジラ=戦争の傷としての黒を、黒い雨に重ねた演出は見事。神木くんの絶叫も良かった。銀座大破壊の後、家で写真と向き合うシーンでは、敷島が向かう部屋の一角の暗さが際立つ。ここも黒を使って、時間が止まった死の空間と、典子が立つ光あふれる台所=動的な生活空間を対比している(監督の敬愛する溝口的な表現と言えなくもない)。ラストの病床でもう一度黒を拾うのも、珍しく気が利いている。

・ゴジラが海面に出した首を揺らす姿が可愛い。ピュッと出す感じの放射熱線の描写も新鮮だった。
怪獣の悲哀、ゴジラが被害者、人間が加害者である点はほぼ描かれないので、受ける印象としてはモンスターパニックに近い。山崎貴の意識はやはり日本の特撮ではなく、ハリウッドのSF映画にあるようだ。

顔の横をすり抜けるゴジラザライドのようなカメラワーク、2021年の「ゴジラvsコング」でハリウッド版もやっていたが、怪獣映画というよりアトラクション的で、個人的には苦手。

・銀座のシーンは本当に素晴らしいのだが、ゴジラの出演は少ない。陸上で暴れる場面がもう一つは欲しかった。また、敷島目線が強いせいで「銀座が再び破壊される日本の絶望」が描かれないのは本末転倒では。

・敷島以外の人間パートは退屈で、2回目の鑑賞では銀座の後、最後の作戦までかなりウトウトしてしまった。「太平洋戦争をやり直し、去勢された男性性を復活させる」って今どき相当珍しい「王道」だなとは思う。
Kuuta

Kuuta