イタルマン

ゴジラ-1.0のイタルマンのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
1.0
やさしいゴジラ。
神木を殺す気は無かったろう、君は。
追い詰めるのに手を抜きすぎだもの。

本作は日本最高峰のVFXでゴジラを描いているが
人間ドラマ部分は限りなく最悪の演出。
登場人物は誰もが思っていることを全部セリフで言うし伏線は見え見えすぎて展開がこちらの予想から一歩も踏み出さない。
あまりの超親切設計に観客のリテラシーを低く見積もりすぎではと思ったが、絶賛の声が多いところを見るとこれくらいやらないといけないのだろう。

芝居はクドすぎて舞台劇みたい&書き割りみたいなキャラの羅列で嘘のスケールが馬鹿でかくなっており、深刻なドラマとの食い合わせが極めて悪い。この空気感なら宇宙人が攻めてくるあたりのラインじゃないのか。
こんなガバガバだとどうせネームドキャラは死なないだろうなという安心感にしか繋がらない。何も奪われないであろう戦いは茶番でしかなく、ゴジラは恐ろしくもなんともない。主人公が気絶したら必ず一度帰ってくれる。わかりやすい舞台装置だ。

浜辺美波が死んだ(と思わされた)時はオッと感じたが、そこまでのご都合主義がすぎる。
ゴジラが東京に来ると分かっているのに浜辺にそれを伝えない神木。先程ゴジラの脅威を目の前で見たばかりなのに銀座に送り出してしまう。
結果ゴジラが銀座に上陸し、浜辺が電車からザブンと水に落ちたあとヨロヨロ歩いてるところにちょうどよくまたゴジラが来る、そして銀座のどこにいるかも知らないのにその浜辺を見つける神木。
爆風から逃れるために神木1人を壁際に押しやる浜辺も謎。なぜ2人で壁に隠れない。
なんとかして銀座で神木の前で浜辺を殺さなきゃならないんだ!という都合を感じてしまって心底萎えた。

映画が「行間を読ませる」ということをしないスタイルなので脳が内容を咀嚼する必要がなく、余ったリソースが粗探しに使われる。
そして一度気になるとどんどん気になるところが出てくる負のスパイラル。

音楽の使い方も気になる。
『ゴジラのテーマ』を初代の時と同様に『ゴジラと戦う人間のテーマ』として使ってくれたのは嬉しかったが、その曲がそのまま『キングコング対ゴジラのテーマ』に変わるのは心底謎。引用元を気にせず放り込みすぎだ。

一番気になるのはワダツミ作戦会議の席だ。
特攻を否定しテーマを「生きて、抗え」としながらも、ここでの行為は大和魂に帰結している。
「この作戦、必ず死ぬってわけじゃないんですよね?じゃあずいぶん気楽だ」と笑ってみせる志願者に周囲が同調し、感動的な音楽が流れる時の違和感。
『必ず死ぬと分かっている作戦』でないのは先の戦争でも同じだろう、すでにゴジラに3万人も殺されている状況でこの発言は脳天気が過ぎる。たとえそれが空元気の言葉、周囲を和ませるためだったとしても『誰かが貧乏くじを引かねばならない、ではここのみんなで引こう』という自己犠牲を感動的な音楽で盛り上げるのは特攻賛美とどう違うのだ?
何よりも吉岡秀隆が軍部の批判を繰り広げるのが気持ち悪い。海軍工廠で兵器を開発して来た人間がどの口で「この国は命を粗末にして来た」などと言うのだ。お前自身がその「命を粗末にして来た」中核に位置する人間なのに自己批判は無しか。感動してるんじゃないよ周囲も。言ってる事は「命を大切にする作戦」だが結果的には戦時中と同じように「生きて帰れるか分からない作戦」に行くことになる。元軍部の口車に乗るほど全員が馬鹿なのが信じられない。あるいはみんなで敗戦のフラストレーションを晴らしたくてウキウキしていたのかもしれないが。どこが反戦映画なんだよ。
そして吉岡秀隆が「この作戦では誰も死なない事で成功とします」と言い切る次点で作中で誰も死なないのが分かってしまう。この台詞が嘘になってしまうから。「死なせたくない」というグレーな発言にして緊張感を保たせてくれ。
始まる前から茶番と分かる最終決戦に心躍らせようがない。

演出と脚本が生存フラグを次々と積み上げ、生きるために抗う必要がどんどん薄まってしまう。
戦争という死の運命の象徴でありながら
ゴジラが神木を追い詰める様はあまりにもヌルい。
例えばゴジラに何度も近づき黒い雨も浴びた神木が放射線障害に苦しむのはどうだろう。
原爆症に蝕まれ特攻して死ぬつもりだった彼が、浜辺生存の報を聞き生還しようと決意する。
『生きて帰らねばならない、だが特攻せねば倒せない』この二律背反がなければどちらの決断にするかの緊張感をもって彼を見つめることができないのではないか。
最初から特攻すると分かっているのなら、無音のタメ時間のなかゴジラのもとへ飛んできたあの瞬間はただ予定をこなしただけだ。

神木が苦しみ死に近づきつつもなお生きねばとする強烈な生へのしがみつき、それこそを「生きて、抗え」として欲しかった。
それを強烈に粉砕しようとする悪夢の様なゴジラが観たかった。

私が観たかったものはここにありませんでした。

ゴジラよ戦いに手を抜くな。
脚本と演出の都合で動く君は
あまりにも人に優しすぎる。

※11月6日大幅に追記しました。
イタルマン

イタルマン