emily

そして、ひと粒のひかりのemilyのレビュー・感想・評価

そして、ひと粒のひかり(2004年製作の映画)
3.7
コロンビアの小さな田舎町。17歳のマリアはバラ農園で働いている。彼女の収入は家族の生計を助けるためにつぎ込まれ、姉の子供の生活の面倒まで見てる状態だ。当然家族にとってはそれが当たり前なのだ。些細なトラブルで仕事を辞めてしまい、妊娠してることが分かる。家族のためにお金が必要だ。しかしこの田舎ではバラ農園ぐらいしか仕事がない。彼氏とは結婚も考えらえない。そんな彼女が選んだ道は「ミュール(運び屋)」の仕事だ。体内に麻薬を飲み込み密輸する仕事である。それは体内で割れてしまったら死に至る。そうしてニューヨーク行きの飛行機に乗る。

家族のために自分を犠牲にして働くしかない現状。コロンビアの田舎町で空を見上げて、現状を変えたいと願う少女の思いが切に伝わる。陽気なサルサとお酒、おかれた環境をしっかり描写してから、ミュールの仕事へと移る。ミュールの内容や、その過酷さをマリアと一緒に味わうことになる。しっかり監視された仕事で、きっちりとグラムを図って、手袋をした手で粒を作っていく。かなり大きな粒で、喉を滑らすように胃まで届けなくてはならない。それを体格に合わせて、マリアは62粒運ぶのだ。飛行機の中でも、その揺れと闘わなくてはいけない。丁寧な描写で、その仕事内容がしっかり観客に伝わる。そうして痛みや辛さを共有できるようように丁寧に描写してくれる。

アメリカに着いてからはシフトチェンジされマリア自身の自分探しの旅へとつながっていく。マリアの何かを見据えたようなしっかり前も向いた目が印象的である。どんなときも冷静に物事をとらえ、考え、そうして一人で結論をだしてきたのだ。仲間の悲劇や、同郷の人との語らいで、彼女自身の目でニューヨークを歩いて、道行く人達を見る。笑顔があふれて皆幸せそうに見えたのかもしれない。当然どこにいても苦悩はあるし、幸せな生活を送れるかは、その人次第だ。しかしここには選択の自由がある。仕事を選べる自由がある。見上げた空は同じでも、彼女に映るそれはどこまでも広く可能性に満ち溢れているのだ。皮肉にも現状から抜け出すきっかけは密売である。しかしそれだって立派に”何か”を変えようとして起こした行動であることは間違いない。

未来につながるきっかけは皮肉であるが、それでもやはりそれを生かせるのは自身の強さである。どんな現状でもやはり光はあるのだと。あきらめない前向きな余韻を残してくれる。
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