けんけん3号

理想郷のけんけん3号のレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
3.9
WOWOWのオンデマンドで見つけて鑑賞。なかなか見応えのある作品だった。夢のスローライフの為に移住した地は、静かで美しい自然の山岳地帯。しかし、この穏やかな風景とは反して、村人は貧困にあえいでおり、どこかただならぬ雰囲気を醸し出している。なにが良くて、なにが悪いのか、外部から来たものには分からない村社会の常識が怖い。まして本作の場合は村民にとっての大金が絡んでいるからやっかい。憧れを実現しているよそ者のせいで大金を貰い損ねたら、アントワーヌをどうにかしてやりたい気持ちも分からないでもない。やっかみもあるだろうし、田舎は良くも悪くもしきたりがあるし、住人の結束がハンパない。だからと言って、アントワーヌ夫妻は何も悪いことをしてないので、大金をはたいて移住してるからには、引き下がれないのも分かる。まして、生活の糧をめちゃくちゃにされたら怒りは収まらない。批判の声があるかもしれないが、あえて言わせてもらうてと、相手の民度が低い場合は身を引くのが一番だと思う。こういう場合のご近所トラブルにおいて、良い結末を迎えることはないだろうから…。命には代えられない。アントワーヌ、オルガ夫妻は第二の人生を送るには、悪い場所を選んでしまった、ついてなかったとしか言いようがない。作品はハリウッド映画とは違いエンタメ色はなく、いやな緊張感が続く。村社会の闇、貧困が招く不条理を見せる。そして後半はオルガの肝が座り、執念がみなぎり、娘さえ跳ね返す強さを見せる。前半のサスペンス感から、ガラッと作品のカラーが変わる珍しい展開。ラストはオルガの執念が達成される感じだった。鑑賞後はなんのための移住だったのか、幸せな2人が失ったものが大き過ぎて切なくなった。しかも実話ベース。う〜ん、何か色々考えさせられる作品。