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ルーム・メイドのニューランドのレビュー・感想・評価

ルーム・メイド(2022年製作の映画)
3.4
✔『ルーム·メイド』(3.4p)及び『ラ·ハウリア』(3.1p)▶️▶️

 マルテルのこの短編の方が、併映というかメイン長編の前に上映されるのかと思ってたら、逆だった。マルテルだけ観たら他所の会場に行くつもりで、チケットも買ってあったのに、パァに。
 マルテルは21世紀に入り、世界のトップレベルに躍り出たアルゼンチン映画をリードしてきた、今世紀有数の大映画監督だが、英語も殆ど読めない私は、世界的絶賛を知らず·見逃してきた。唯一、その年の世界映画のベスト、2010年代でも有数の傑作と広く絶賛の、前作·長編を押さえてるに過ぎない。それまでの現代を自由に料理した作風から、歴史の鬱屈·秘めたる渦巻きを見事に重厚に複層に表した、どこから見ても揺るぎのない傑作だった。これは当初のプログラムにない緊急上映だったので、長くこの作家に取り憑かれてきた私より一世代年配の人に教えてあげると、感謝されると共に、その催しラテン·ビート映画祭での鑑賞歴と感動を教えられた。パソコン出来ずの、ケイタイ·スマホも割と最近の人間なので、その映画祭やCSの今はWOWOWに買収され消滅のシネフィル·イマジカでかなりの頻度で上映されてたようだが、ローテク·映画祭面倒世代でどうしようもない。
 さて、この本意ではないだろう短編作だが、一流ホテルに場違いに勤め始めたルームメイドのおばさんの、先輩にたしなめられ、陰を見つけては·うちの子らに家事指図のケイタイに、男他の様々な混信、一旦ベランダに締め出され·剛力?で戻り、ベッドメイクから勝手シャワー浴びで居直り発散を繰り広げるや、翌朝にはセレブ客になってて、チェックアウトまで堂々と振る舞い切る、というもので、スコープを活かした左右への人とカメラの繰り返し長いスパンの動き、高給ルームの散策冒険的訪ね歩き感が、素晴らしい。その中で、ベランダに出ての彼女を廻り捉えてくカメラにそのまま同調して巡り抜く、やっとこさ室内に戻れての、長いベッドの白いシーツと格闘·上下しながら遊びぬく様なフォロー(の表現的ピーク)に至る。その後シャワー浴びる速廻し·高速の動きと猛々しく変身してくデモーニッシュさの塊りは、評価が難しいが、翌朝の物怖じもしないセレブ変貌の振る舞いの自家薬籠ぶりは楽しく、心地いいふてぶてしさ。前作の歴史の重み·苦渋から、現代の乗り越え勝手解放に戻ったような作品だが、その両者はリンクしている。
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 メインの長編『ラ·ハ~』は、悪くはないが、良くも悪しくも、こじんまり生真面目にまとまってる作。都市の少年院から、次なる予定地の荒れた田舎にへ整備兼先発第一·二陣として送り込まれた数人の少年ら。「集団で他を鏡として自己立場·位置を知る」べく教育熱心めの教官と、そんな事·端からなく、監視·脱出見張り·恐怖管理に徹する上位教官。少年らの中に、父殺しを計り他人を殺し遺棄した、不良も真面目な少年と、その共犯、というより·より悪どく殺しも平気·ヘラヘラと責任を避け除ける友。殺した相手の家族と向き合い、遺棄現場へ向かうも、両者の態度は歴然とした違いが。やがて後者主導で脱走に成功も前者だけ生き残り、故郷に戻り今·代わって治める弟らの歓迎受けるも、応えず自己の内をみつめて(彼オンリーへのライティングや·長い無言CU)、更に遠くへ離れてく。
 湿り暗い空間を、俯瞰め、縦の図、切り返しやどんでん、若者いちゃつきらが丁寧だが、取分け見張りや手元や並び対応を押さえる、フリーな横移動·パンの行き来が柔らかく見事。それでも世界は閉ざされたままで、ラストの車に乗せられての縦移動延々も、今イチ、力を欠く。
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