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エドワード・ヤンの恋愛時代 4K レストア版のohassyのレビュー・感想・評価

3.8
「機会に恵まれたら観ておくべき映画」というのが、いくつかあると思う。
エドワード・ヤンの作品はだいたいそれに当たる。
アマプラにもU-NEXTにもほとんど存在しないし、TSUTAYAがいよいよレンタルから撤退する今後は、観たい!と思っても簡単には観られない。

監督は理系出身だからなのか、やはりどこか登場人物たちを突き放し、一定の距離感を保つ撮り方をしているように感じる。
感情をぶつけ合う人物たちのやり取りを、どちらかといえば「よくわからない生き物」として観察するような。
とはいえそれはバカにしているとか冷徹にというのでもなく、あくまで温かな眼差しだ。
それぞれが自分自身で勝手に苦悩を背負い、勝手に生きづらいと感じながら、それでもがんばって生きる姿を捉え続ける。

邦題が「恋愛時代」なので彼彼女たちの恋愛模様に注目が行きがちがけれど、中国語の本タイトル「独立時代」として観れば、また違った印象がある。
本作が公開された1990年代半ばは、台湾が高度成長を遂げ、長きにわたる中国からの支配からいよいよ独立しようという頃。
日本のバブル末期にも似た狂騒の中で、若者たちが目に見えない価値観に縛られ、抗いがたいうねりの中で、どっちに向かうのが正解なのかもわからないまま必死に泳ぎ続ける。
監督のあたたかく優しい視線は、物語の締めくくりにもしっかりと現れる。
時代に翻弄され疲れ果てた先にあるそれぞれの成長は、若者たちに向けたエールそのものだ。

さまざまなものに翻弄され続け疲れ果てた現代に生きる僕たちも、そのおかげで成長し、ようやく新たな地平がひらけてきた。
その果てしない地平に登る朝日に向かって立ち上がり、一歩を踏み出す力をもらうには、もってこいの作品であろう。
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