ストレンジラヴ

西部戦線異状なしのストレンジラヴのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
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「神とともに皇帝と祖国のためにいざ戦場へ!」

この作品の意義は「ドイツが製作に関わった」という点にあると思う。
気持ちは買う。しかし、惜しい。
映像は1930年版の比ではないが、そこに頼りすぎた感が否めないし、ストーリー全体もレマルクの原作よりは後世の価値観の方に重きが置かれており、却って判断を誤るのではないかという怖さを覚えた(大河ドラマの視聴率が落ち込むのは、主人公が「もう戦争のない世の中を作りたいのです」と口にした時だそうで、それと同じ)。
1930年版を観た身としては、どうしても比較になってしまう。1930年版は撮影技術そのものが未熟という制約があったが、如何せん終戦からわずか12年で製作されており、言ってしまえば作り手はほぼ全員「戦争経験者」で構成されていた。実際に戦場に行った者も少なくなかっただろう。だからこそ、所作や表情は演技を超えていた。今回は逆なのだ。どうしても芝居に見えてしまう。これは見方を変えれば「戦争を知らない」ということで、それはそれで幸せなことなのだけれど、寄せようとするがあまり不自然さが際立つ場面がいくつかあった。フランス兵を撃つ場面で銃のボルトが縦向きになっていたり(発砲するためには横向きにしないといけない)、砲弾が自分の右側に落ちて戦死した同僚に主人公が駆け寄って見てみると、同僚は何故か顔の左側に大怪我をしていたり、何より主人公にもろに砲弾が当たっているのに、ただ吹き飛ばされて「痛い」で終わっているのはさすがに無理があるのではと思った。全体からすれば本当に瑣末な点に茶々を入れているのは認めるが、やはりそういうところが目につくと作品そのものの説得力が落ちてしまい、結果としてこれだけの力作なのに「グロかったね」という感想だけで終わってしまう。非常に勿体ない。

しかしドイツ軍のハゲの将軍の無能of無能たるや。あんな奴の配下にだけは絶対に入りたくないものだね。

※本筋から外れるが、何かと食事の風景が印象的な作品でした。ガチョウの丸焼き、塹壕でのカンヅメとパンとチーズ、汽車の中でのビュッフェ、司令部の肉料理とワイン…兵士より犬の方がいいもん食ってる。