Frapenta

西部戦線異状なしのFrapentaのネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

人間1人の命は駒でしかないのがあらゆる場面で強調されており、反戦映画としての元作品を現代で力強く甦らせた素晴らしい作品となった。

第一次大戦において人間は"モノ"同然に扱われているという残酷性が最初のシークエンスですぐに実感させられる。
戦火の中必死に駆け回り鎌のような武器で敵国の兵士を薙ぎ倒そうとする。
しかし、タイトル後には既に亡くなっている。その後、死体から戦闘服が剥がされ、映像はその服の行き先にフォーカスされる。洗濯、裁縫の末、再び手に渡されるのは別の志願兵(主人公)だった。「名前が違う」と指摘するが、いい加減な嘘を吐きつつ元々の持ち主の刻印を剥がし捨てて、また主人公に返す。この服を主体とするシークエンスは圧巻で、同じように人が使い回しのモノ同然と化しているのを如実に表している。戦争における命の軽さを示すには十分すぎる出来だ。
そんな悲惨さも知らず若者は権力者にのせられて戦場に赴くことになるのだ。現代を生きる我々であれば戦争は地獄そのものであることを知っているだろうが、歴史上初の世界大戦であったせいか、当時は庶民は誰もが英雄になれるという高望みから自ら手を挙げていたのが心苦しい。

この物語の結末は現代であれば容易に想像がつく。戦争が起こす終局に幸せは存在しない。
だから我々は戦争がいかに愚かかを教え、行くのをやめさせたいと思う。しかし我々はできない。来る悲劇を我々は止められない。そんな歯痒さを噛み締めながら物語を鑑賞することになる。

また、主人公たちが苛烈な戦場に駆り出されてからは上層部がいる土地の静謐さとの対比でより命の不平等が際立つ。
同じ人間なのに、同じ時間にどうして銃も叫びも響かない場所に胡座をかいているのだ?たとえ戦地を思って署名に動こうとしていても、命の重みは明らかに違いがあるのだ。
最後の休戦15分前で将軍に逆らえず再び戦闘を強いられるのは特にそれを象徴しており、彼の悪あがきによって他人の命が削られているのが憤慨モノ。そんなくだらない意地の張り合いがなければ、人は救われたのに。あと1分でも過ぎていれば、主人公は生きていたのに……。
兵士は将軍が持つチェスの駒じゃない。指でつまめる程度の命であってはいけない。将軍の父がビスマルクに仕えていた自慢よりも、家族を愛する心の方が何よりも尊いはずなのに……。

この上層部の描写はたしかリメイク元にはなかったと思うので、元を観ていても違った視点で楽しめるのが良かった。


全体通してショッキングでやるせない気持ちを残す映画だった。最後の狼煙と雲から垣間見える斜光が重なるシーンは、この現実に置いてけぼりにされた感情とリンクするような消失感があった。
リメイク元は主人公は帰還するがPTSDのようになるエンドだったが、こちらもずっと観てきた主人公が最悪の形で死ぬという意味で、反戦を訴える映画で最高峰に位置するだろう。

あと、アカデミー作曲賞など受賞おめでたい。確かに緩急のあるサウンドはクリエイティブで、世界大戦の映画にはあまりなかったかもしれない。余韻を残してくれた。
バビロン獲るだろうと踏んでいたが、このクオリティなら色々納得だった。
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