ぶみ

福田村事件のぶみのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
4.0
関東大震災から100年、いま見たことを、伝えたい。

森達也監督、井浦新、田中麗奈、永山瑛太等の共演による実際に起きた出来事をベースとしたドラマ。
1923年9月6日、関東大震災の混乱の中で千葉県東葛飾郡福田村で起きた、通称「福田村事件」を描く。
故郷となる福田村に帰ってきた元教師とその妻を井浦と田中、讃岐から福田村を訪れていた薬売りの行商団のリーダーを永山、村の渡船の船頭として働く男を東出昌大、村の様子を取材する新聞記者を木竜麻生、福田村村長を豊原功補が演じているほか、村人や行商、自警団のメンバー等として柄本明、ピエール瀧、水道橋博士、コムアイ、松浦祐也、向里祐香、杉田雷麟、カトウシンスケ等々、個性溢れる演技派キャストが集結。
物語は、関東大震災発生から5日後、福田村に住む100人以上の村人たちにより、香川から訪れた薬売りの行商団15人のうち、幼児や妊婦を含む9人が殺された福田村事件の顛末が描かれるのだが、本事件については恥ずかしながら全く知らず、本作品で初めて知った次第。
それもそのはず、本事件そのものが明るみに出ることはなく、1980年代からようやく新聞等で報道されるようになったとのことであるため、それこそが、本事件の闇そのもの。
作品内では、行商団が讃岐を出発したところからスタートし、中盤までは、行商団や村人の泥臭くも人間らしく生きる日常の姿が描かれ、ここまでが少々冗長に感じられたのは否めないが、その分、各登場人物が何を考え、どんな生活様式だったのかが、つぶさに伝わってくるものとなっている。
後半に入り、大震災が発生するが、その描写にはあまり時間が割かれておらず、大震災に対するパニックものとしての映像表現は薄いものの、その後、朝鮮人を取り締まるための自警団強化に始まり、流言が飛び交い、村人たちが群集心理の中で殺害に至る様は、思わず目を背けたくなるほどの臨場感で、ドキュメンタリーを主戦場とする監督の真骨頂と言えるもの。
とりわけ、本作品のような事件にかかわらず、臨界点ギリギリのところで留まっていたところを、ひとたび誰かが0を1にすると、以降1を2にするのは、いとも容易いことであるのを、あらためて感じた次第。
加えて、実刑判決を出された8人全員が、昭和天皇即位による恩赦で釈放されたとあれば、そもそも私的には恩赦の意味がよくわからないところであるのに、被害者関係者等の感情たるや推して知るべし。
情報過多であり、フェイクニュースが飛び交う現代だからこそ、本事件を他山の石として捉え、思考するという行為の大切さを今一度見直しつつ、多くの人に触れてもらいたい作品であるとともに、前述のように0に何を掛けても0なのだが、1になってしまえば、あとは加速度的に膨らんでいくことが手に取るようにわかる良作。

人間に光を。
ぶみ

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