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桜色の風が咲くのspoonのネタバレレビュー・内容・結末

桜色の風が咲く(2022年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

盲ろう者として世界初の大学教授となった福島智さんの、実話に基づく映画。
母・令子が考案した「指点字」は多くの人々の"言葉"となっている。

初めは何故か惹かれなくて観る予定ではなかったのですが、視聴。結果とても良かったです。
母親演じる小雪と徐々に目も耳も見えなくなる智を演じる田中偉登の心の機微が伝わってくる演技が素晴らしくて、本当に引き込まれました。

出来ることなら変わってあげたいと切に願い、向き合おうと懸命に支え続ける母の愛と息子の心の葛藤や苦悩、心の対話が丁寧に描かれている。

町医者では「なんで早よに連れてこんかったん」と言われ、紹介状もらって行った県立病院では「困りますよ、町医者じゃないんだから」と煙たがられる。
牛眼(眼圧が高くなって眼球が膨らむ病気)と診断され、「眼圧ギリギリだから、今日やった方がいいから。」と、プライド高そうな医者に言われ1人での決断を迫られる母。
手術の結果、眼球癆 (がんきゅうろう)で不運だと…。
ずっと先生の言う通りに治療してきたのに、
まだ治療し続けるのは"枯れ木に水を言うようなもの"と言われ、、。

智役の子役の子1歳くらいかな?まだ演技指導できない年齢だと思うのに、いちごがうまく取れない演技凄い!!

子供の為に一生懸命なお母さんが1人で抱える重圧がひしひしと伝わってくる作品。
お母ちゃんに甘えたくても我慢する次男や父親からの言葉に心がすり減っていく、、。

「私、何もしてやれない。出来ることなら変わってあげたいのに。…私これでも母親なのかな。私何のためにいるんだろう」。
「もっと何とか出来たんじゃなかな。どうしてもっとちゃんと見てあげなかったん…。私のせいだ…。私のせい…私…」。

「出来るだけ多くの景色を見せてあげたろ。智が光を失う前に」。

母親の悲痛な心の叫びが父親にも届いた。
智と同じようにサングラスをかける父。

劇中での詩も心に刺さりました。
ー命は自分自身だけでは完結できないように造られているらしい。虫や風が訪れてめしべとおしべを仲立ちする。命はその中に欠如を抱きそれを他者から満たしてもらうのだ。ー

「神様は乗り越えられる強い人間にしか試練は与えへんって言うやろ。あの言葉嫌いや。僕は強くなくてええねん。試練なんていらんねん。普通でいたいねん。何でや、こんなに頑張ってんのに。何で耳まで聞こえへんくなるんねん」。
藁をもすがる思いで東洋医学の治療方法を実践して、食べたいケーキを口に含んで川へ吐き出し母に感情ぶつけるシーン…。😢
「たった1人で宇宙に放り出されたみたいや。想像…できんのか」。

監督 松本准平
脚本 横幕智裕
製作 結城崇史
製作総指揮 結城崇史
音楽 小瀬村晶
撮影 長野泰隆

劇中曲:
ふしぎなポケット
ときめきの宇宙
エリーゼのために
三下り「かっこ」
ピアノ•ソナタ第8番ハ短調作品13(悲愴)

劇中詩:
吉野弘「生命は」
フランツ・カフカ「変身」
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