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おーい!どんちゃんのIMAOのネタバレレビュー・内容・結末

おーい!どんちゃん(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

男三人のシェアハウスに赤ん坊が来て、仕方なく育児してゆくうちに…という話はどこかで聞いたことのあるプロットだし、決して新しい話ではないが、この映画の面白さはその製作過程を含めたリアリティにあると思う。

下高井戸シネマの上映後のトークショーで、沖田監督と出演陣の興味深い話を聞くことが出来た。この話は元々、沖田監督のワークショップで知り合った役者が偶然、家の近くのユニクロで再会したことから始まったそうだ。色々と話しているうちに「今度、生まれた娘を撮ろうと思ってカメラ買ったし、一緒に何かやりましょう」という沖田監督の提案で、監督の書いた短い脚本をもとに、役者数名集まって撮り始めたそうだ。そうしたことを三年にわたり数回行っていくうちに、この作品として結実したとのこと。
なので、この作品を撮り始めたのは2013年で、撮影が終了したのが2017年。そして、コロナ禍となり監督にも時間が出来たことによって、やっと編集&完成したという類稀な製作過程を経た作品でもある。
通常、映画はある程度の制作期間と予算に限られるものだが、そうした縛りから解放されているこの映画には、良い意味でも芳醇な時間軸が映っている。沖田監督の実の娘である「どんちゃん」がリアルに成長してゆく様や、それを取り巻く出演陣はもはや「親戚のおじさん」状態と化して、役作り以上の親密さが映り込んでいる。そういう意味でこれは奇跡の瞬間が捉えられたドキュメントなのだ。
映画(特に実写映画)に時代が変わっても唯一変わらないところがあるとすれば、カメラの前に起こったことを捉えるということだろう。そしてそれが、その時でしか捉えられない瞬間を切り取り、物語として昇華させた時、その映画は稀有な価値を持つ。この映画にはそうした愛すべき瞬間が何度も映っている。

と、とても良い作品なのだが、一点個人的には気になったところがある。ラストの方で、男三人の役者たちが「売れたいな〜。お父さんの仕事が『俳優』だって言われたい」というようなことを呟くのである。そうした上昇志向を一概に否定するものではないが、こうして育児をこなせる男たちでも、仕事こそが(男の)自己実現であるという呪縛からは自由になりきれていないのだ。それはそれで、現代を捉えていると思うし、図らずもこれが裏テーマだな、と思ったりもした。事実、この映画では彼らがフルタイムで働いていないからこそ、どんちゃんを保育園に預けることが出来ないことがさりげなく語られている。

いずれにせよ、当初はある種のホームムービーとして捉えられていた映像が「映画」として公開されたのは、一重に沖田監督のなせる技であったのは間違いない。メジャーとインディーズの堺を悠々と行き来する力の抜けた沖田監督の姿勢は、まさに彼の作品そのもののようで観ていてとても心地よい。
海外では、トリュフォーのドワネルものや、『6才のボクが、大人になるまで。』なども連想させるが、コレも出来たらシリーズ化してもらいたい。そうすることでその時代ならではの独自性が、立ち現れてくると思う。
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