マカ坊

ボーンズ アンド オールのマカ坊のレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.3
人間ではなく劣等感をこそ食べて生きてきた私のような者からすると、否が応でもサリーのこれまでの人生に斟酌せざるを得ないのだが、それにしたって気持ち悪く描くよなー…!

無機質に立ち並ぶ孤独な鉄塔すら送電線という繋がり無しにはその生を実感することは叶わないというのに、いわんや人間をや。

人喰い=クィアのメタファーというのはある面では勿論その通りなのだろうけど、個人的にはより広く「生き方の選択」についての物語だと受け取った。だからこそ随所に映される人物写真の大半が複数の被写体、パートナーの存在を意識させるものである事が持つ意味は大きいのだろう。

撮り方に関しては相変わらず構図の選択と編集が自在でやっぱり格好良い。不意にイマジナリーラインを超えたりハッとするようなクローズアップがあったり。だからこそマレンとリーにフォーカスしたここぞというシーンでのロングショットが一層際立つ。

トレント・レズナーとアッティカス・ロスのスコアもフィンチャーの諸作とはまた趣の異なるムードで見事だし、今作は衣装も印象深い。シャラメの細く白い足を露わにする過度にクラッシュしたジーンズや、80年代アメリカの陽光を透過してテイラー・ラッセルのシルエットを浮かび上がらせるサマードレス。「人の肉を食う人」の肉体に観客の意識が自然と向かうように用意されたこれらのコスチュームが、食人と青春に通底するある種の危険な緊張感を控えめなエロスと共に煽っている。

食人という設定を除けば極めて"ベタ"な青春ロードムービーとも言えるストーリーだからこそ、グァダニーノという監督の映画的ひらめきに存分に浸る事ができる今作。が、それでも鑑賞後数時間経った今、多くの印象的なショットの記憶を追いやり、マーク・ライランスのあの佇まいだけが脳裏に焼き付いている…。
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