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エターナル・ドーターのギルドのレビュー・感想・評価

エターナル・ドーター(2022年製作の映画)
4.4
【思い通りにいかないことを力不足と悔やんではいけない】
■あらすじ
映画監督のジュリー(T・スウィントン)は年老いた母ロザリンド(T・スウィントン)を連れて人里離れたホテルにやってくる。ジュリーは謎めいたこの場所で母についての映画を作ろうとするが、やがて母の隠された秘密が明らかになり─。

■みどころ
凄く良かった!
【A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT】の一作、ジョアンナ・ホッグ最新作で2022年ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門にも出品された。
過去作「Caprice」で主役を務めたティルダ・スウィントンと再びタッグを組んだ本作は映画監督の娘が母親の生い立ち・発言から映画を作ろうと過ごす”映画”映画である。

ジュリーは母ロザリンドと共に人里離れたホテルへ泊まる。手続きに誤りがあったり、車の騒音が決まった時間に鳴ったり、Wi-Fiが届かなかったり、上の階に鳴る謎の音で寝れない…など、ホテルで不穏な空気が流れる。
ジュリーは母の映画を作ろうと脚本を書くためにホテルで缶詰め作業をするが、なかなか書けないでいた。
その中でも母にサプライズをしようとジュリーは準備していくが…

ルカ・グァダニーノ「サスペリア」同様に一人二役を演じるティルダ・スウィントンの凄さ、ホテルの外観の不気味さ・ミステリアスが凄い。
特にホテル内の色彩設計とか屋外の霧がかった映し方とか、それこそ「サスペリア」的なデザインをしていて本作の精神的な主題と上手く紐づいていると感じました。
短編映画「Caprice」ではティルダ・スウィントンがアリスのようにファンタジーの世界を歩き回るジョアンナ・ホッグ版「不思議の国のアリス」な作品だが、本作もCapriceのようなファンタジーさを内包した御伽話のような映画に感じる。

そんな中で本作はジュリーは母へ奉仕に近い愛情を注ぎ、母の悲しむような事をしたくない強迫観念に駆られている。
一方で、母は娘ジュリーに彼女の人生を歩んで欲しいと願う。この子なら子供がいたら良い母親にだってなれるという想いを秘めている。
二人の想いは微妙に異なる方向に向いていて、それに伴うすれ違いによって思い通りにいかない。

けれども、ホテルの従業員で亡き妻と一緒に働いていた男の話で「ここのホテルで妻と出会って働いたけど、良い事も悪い事もあったよ」という話を聞く。
その後、ジュリーと母との関係である出来事に遭遇していくが、その出来事を機にジュリーは脚本の筆を走る。

ここにジュリーの母に対する奉仕する無意識の強迫観念からの葛藤が始まって、そこが素晴らしかったです。
①母に愛情を注ぐ奉仕
②娘に娘の人生を歩んで欲しい願望

この二つが交錯して、それでも私の願望を叶えたい欲求から始まる。けれども、人生は思い通りにならない事が多くて良い事も悪い事もある。
それを自分の力が及ばないからと悔いてはいけない、という母の助言を初めは受け入れなかったが、ある出来事の遭遇・従業員との話を通じてジュリーは少しずつそれを受け入れるのだ。
母親への自己犠牲精神で成り立つ娘が脚本を書くという昇華に至る作品で、その葛藤・人物描写が素晴らしかったです。

書くことはすなわち前進する、その1点だと本作はイ・チャンドンのバーニング劇場版とベクトル近いかな?

ミステリアスで様々な人のドラマと思い出が詰まったホテルという場所に身を置くことで自分の秘めた内面が共鳴して前向きに進む本作に感動しました。
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