延々と歩く

Pearl パールの延々と歩くのレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
3.5
 A24制作の傑作ホラー「X エックス」の前日譚。

 二作目にしてますます面白い。「エックス」撮影中にコロナがひろまってスケジュールが全部ストップ、その間に足止めを喰らったロケ地ニュージーランドで本作を仕上げてしまったという。メインキャストにニュージーランドの役者さんが多いのもそのため。

 はっきりした悪人が一人もいないのもエモいというかやるせなさに拍車をかける。ヒロインは家を飛び出したくて上級国民の旦那と結婚したのに旦那は理想家すぎてその育ちを憎み、主人公の農家にやってくる。そのうち戦争がおきると国のため彼女をおいて戦場に行ってしまう。誰も悪くないのに皆が追い詰められていくという悲劇。

 恵まれない環境に対する不満、その逃げ道だったはずの「夢の世界」も足を踏み入れてみれば、というか一歩も踏こめないまた別の絶望だった、というのは誰でも共感できる普遍的な現実だろうと思う。本作でもヒロインがこのデッドエンドな心情をあつかって、しかしいきなり超絶サイコな反応を見せるからいまいち心に染みるような染みないような、とはいえ「身近にいるサイコ」の行動なんてこんなものかなあとも思うしエンドロールで演じられる夢と狂気と現実と…なトンデモねえ家庭風景には度肝を抜かれる。

 まあ前作から引き続いて伏線の張り方がしっかりしてるというか、ジャブは打っても前半30分なにも起きない展開にはちょいと焦れてしまったが。設計がちゃんとしてるぶん、観終ったあと腹持ちするのは利点だろう。最近の話題作にしては2時間以内にまとまっているし。

 主人公をヨーロッパに誘う映写技師はアメリカ出身のデヴィッド・コレンスウェット。この人はジェームズ・ガンの「スーパーマン・レガシー」で主役に抜擢されてるんですね。それも納得のセクシーナイスガイだった。従軍経験からヨーロッパの文化を知り、立ち振る舞いが都会的でカッコいい。

 普段からちょいサイコ気味な主人公が彼に見初められ有頂天になり、色々ありすぎた実家を案内するんだけど詰めが甘すぎて大体バレちゃう場面が良かった。ドン引きさせたくらいでヨーロッパや国内の都会(ニューヨークとか)への脱出ルートは消えてないと思うんだけど、そこを乗りきれずムチャクチャにしちゃうのがリアルなサイコでしょうか。

 義妹を演じるエマ・ジェンキンス=プーロにやられた。追い詰められた主人公がアタイから最後の希望までもっていきやがって…と勝手に逆恨みするんだけどズルもせずダンスのオーディション受けただけだし、お金持ちゆえに無神経なのかと言えばまあそんな感じもしなくはないけど普通に良い人の部分が強くない?みたいなキャラクター造形が絶妙だった。背は小さいけど華がありグラマーなブロンド美女…これは全部持っていくのも納得ですわ。小生の極小マグナムも暴発気味だが弱小すぎて何の効果もねえ。
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