延々と歩く

スパークス・ブラザーズの延々と歩くのレビュー・感想・評価

スパークス・ブラザーズ(2021年製作の映画)
3.8
 カリフォルニア出身の兄弟バンドのドキュメンタリー。70年のデビューからイギリスを皮切りにヨーロッパで評価を固め、浮いたり沈んだりしながら現在に至るまでを追う。

 良さそうな感じと思いつつ置いといたのを、改めて見るとやっぱ面白かった。メイル兄弟は創作上の自由が第一でヒットは目指していないそうだけど、それでもヒット曲はたくさんあって観終るころにはお腹いっぱい。ザ・フーやキンクスが好きすぎて英国色がつよく、作中のインタビューでも「アメリカのバンドだと思わなかった」という関係者がたくさん出てくる。キンクスファンとしては「デビット・ワッツ」が流れて思わずニッコリ。

 トッド・ラングレンはベスト盤しか聞いたこと無いけどその範囲では好きなミュージシャンで、当時の恋人にスパークスを紹介されデビュー作のプロデューサーを務めた。その恋人が今度はメイル兄弟のボーカル担当・ラッセルと付き合い出したという話も驚く。当人同士では特に問題なかったそうだが。

 アルバムは一枚目・二枚目ともに売れず、特に二枚目のプロデューサーはショックのあまりテレビCMの世界に鞍替えしてしまった。「アメリカでなくイギリスなら…」というレコード会社の意見を入れロンドンに飛ぶ。現地のテレビ司会者には馬鹿にされるが話題になり、有名ライブハウス「マーキークラブ」での公演はすぐ完売、そこから快進撃がはじまる。名盤とされる「キモノ・マイ・ハウス」の制作もこの時期。

 ポップで華やかな作品世界のバンドが、やがてパンクロックの流行に飲み込まれ「自分たちのやってきたことすべてが憎まれているように感じた」時代になるから大変である。人気商売にはつきものの問題とはいえ。そこからダンス音楽に接近し「No.1イン・ヘブン」の大ヒットを飛ばすというのがまたスゴイ。レコード契約が決まらず6年間ブランクが開いた時も、久々のシングルがドイツで年間トップレベルに売れたという。

 すごいバンドで音楽的にも興味がわいたけど、とはいえクイーンの「ボヘミアンラプソディー」あたりを延々聴かされてるような感じもした。そしてクイーンとはちがって「汚れなき天才少年」っぽさがつよいというか。映画監督なら「ナイブズ・アウト」のライアン・ジョンソンを連想したし冒頭に出てくるメイル兄弟以外のミュージシャンが「ルーザー」や「オディレイ」で有名なベック、というのも分かりやすい。
 いわゆる「実験のための実験」みたいな、人間味のないテクニカルな挑戦のみのバンドではないだろうけどこのツルツルした質感は独特だ。
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