カツマ

アイ・ケイム・バイのカツマのレビュー・感想・評価

アイ・ケイム・バイ(2022年製作の映画)
3.6
深淵は奈落のように広がっていた。空回りする正義感、その代償としては大き過ぎる悲劇の残滓。彼が首を突っ込んだのは、絶対に覗いてはならない闇の間際。人間の表と裏側。それは極端なほどに膨れ上がり、深い場所へと隠蔽された。この悲劇のスパイラルを止められる者はいるのか?最悪な展開ばかりが脳裏をよぎる、胸糞ホラー映画のような虚無感が全編を包み込む。

『1917 命をかけた伝令』や『ミュンヘン戦火燃ゆる前に』など、最近主演作が相次いでいるイギリスの俳優ジョージ・マッケイ。今作は彼を主演に据えたNetflixが送り出す一風変わったサスペンススリラーである。『変わった』と表現しているのは、今作が序盤の展開とは離れた場所に向かっていくからであり、テイストとしてはもはやホラー映画に近い。そこに込められたのは漲るほどの社会描写。密かに人種問題を切り口にしていて、それを物語の中に強引に盛り込んでいる。クールに『参上!』するのは誰なのか?何段階かのストーリーテリングという名の迷路に迷い込んでほしいと思う。

〜あらすじ〜

グラフィックアーティストのトビーとジェイは、富裕層の家に忍び込み、『アイ・ケイム・バイ!(参上!)』というグラフィックアートを残しては、富裕層への反骨精神を世の中に示してきた。だが、ジェイのパートナーが身籠ったことで、彼は活動をやめることをトビーに伝える。黒人のジェイは罪が重くなりやすく、捕まるリスクも高い。子どものためにもそんな危険を犯せないジェイは、トビーとの訣別で穏やかな生活を望んでいた。
仕方なく一人での活動を開始したトビー。次なる富裕層のターゲットは貴族階級出身の元判事ブレイクで、ジェイの下調べをもとに、トビーは単独で屋敷へと潜入する。しかし、ブレイクの屋敷の地下で彼は恐ろしい光景を目撃してしまい・・。

〜見所と感想〜

序盤はそこそこに退屈な展開で、グラフィックアートを富裕層の壁に残しながら、その過程で何が起こるのか?という段階からの先の展開が読みにくい。ただ、そこからホラー展開に転換し、一気にストーリーは動き出していくと、あれよあれよという間に胸糞な方向へと爆進していく。全体的にトーンは暗く、救いも少ない。メッセージ性にはダイレクトにアクセスしており、人種問題や階級社会に対しての痛烈な現状を揶揄しようとする努力も窺える作品である。

どうしてもネームバリューの大きい主演のジョージ・マッケイにスポットを当てたくなってしまうが、実は隠れ主人公のパーセル・アスコットの方が重要な役柄である。また、演技力に関しては、元判事役のヒュー・ボネヴィルの不気味な暗躍具合が圧倒的。アッサリと凶行を重ねていく静かな狂気がこの作品をジワジワとドス黒い方向へと連れ去っていく。また、主人公の母親役のケリー・マクドナルドも重要なスイッチとして機能しており、彼女の行動が物語を更に不穏な海へと船出させていくことになる。

シンプルな物語を複雑怪奇に見せる趣向は功を奏しているため、もう少しスパイスが効いていたらもっと面白い作品になったかもしれない。とにかく闇の深さが段違いで、その割に驚くほどに淡々とストーリーは進んでいく。『参上!』したのはあまりにも遅すぎたような気もしたけれど、、。

〜あとがき〜

あらすじだけだと本筋が分かりづらい映画でしたが、蓋を開けると、正義はどこにある??と問いかけたくなるようなサラッと胸糞なサスペンススリラーでした。

ジョージ・マッケイが主役ということになってますが、、という映画なので、そのあたりは実際に確認してみてほしいと思います。とはいえ、めちゃくちゃオススメ!というわけでもない作品でしたね。
カツマ

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