回想シーンでご飯3杯いける

SHE SAID/シー・セッド その名を暴けの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.0
世界中で社会現象を生んだ性犯罪告発運動「#MeToo 運動」のきっかけとなった、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行事件への告発記事を、ニューヨーク・タイムズの女性記者2人の視点で描いた作品。

関係者の名前は勿論、当時のアメリカの世情を描く上で登場するトランプ元大統領(電話の声)等、人物は全て実名で登場するが、性加害現場の直接描写は無し。本作がスキャンダラスなサスペンスではなく、社会問題をマスコミ視点で描いた社会派作品である点が、きっちりと作風に表れている。

女性記者を演じているのはキャリー・マリガンとゾーイ・カザン。2人とも質素なTシャツ姿で裏方然とした佇まいに徹しているのも印象的で、この作品に対する力の入れようが伝わってくる。

物語は2人の女性記者が取材の中で、様々な証言を獲得していく様子を軸に綴られるのだが、その中で「オフレコ」「オンレコ」という言葉が何度も登場するのが印象的だ。性加害問題の、特に被害者による証言には、二次被害等を含む高いリスクが伴う。当初はなかなか証言が集まらなかったものの、誰かが勇気を出して声をあげる事で、周囲の新たな動きを喚起していく。その連鎖こそが「#MeToo」であり、本作が最も描きたかったポイントであるはず。そのディレクションからブレない構成が素晴らしい。

女性記者2人の、夫や娘とのやり取りを描く中で、この問題が特定の加害者に対する物ではなく、僕達市民全体の生活を脅かす問題である事を描いている点も良い。権力者によるセクハラ、パワハラは、特定の絶対的悪者と被害者だけの話ではなく、社会のシステムに蔓延る根深い問題で、マスメディアを含めた社会を構成する人達が自分事として向き合う必要があるのだ。同様の問題でありながら、日本でジャニーズ問題を取り上げるマスメディアには、その視点が欠けているように思う。


※フォローしている方のレビューを全て読みました。さすが映画好きの皆さんらしい熱いレビューばかり。作品本体以上に、そのような反応を確認できた事の方が収穫でした。