ハル

あの娘は知らないのハルのレビュー・感想・評価

あの娘は知らない(2022年製作の映画)
3.8
舞台挨拶付き完成披露試写にて。
あらすじがとても好きなテイストで鑑賞を決めたけれど、喪失と邂逅の物語に心を揺さぶられた。
俊太郎(岡山天音)は自分の元からいなくなった恋人が亡くなったと聞き、奈々(福地桃子)の元を訪ねる。
こんな別れ方をしてしまったら、自分でもこうしてしまうだろうなぁと想いを重ねながら眺めることに。
一方で奈々も自分の中で止まってしまった時間に答えを見いだせないまま。
戸惑いが心を絡め取り、動き出せない状態。
こちらの気持ちも切なく痛く伝わってくる。

どちらにも共感してしまう要素がたぶんに含まれている本作、伊東市で撮影を行った事が舞台上のキャスト達から語られたが、ロケーションは本当に素晴らしかった。
雨上がりの道路、草木、照明が蛍のようにポツリポツリと反射する海辺。
素朴だけど凄く幻想的。
自然の“生”の美しさが見て取れ、気持ちがデトックスされていく感覚を味わえる。
流れる音も誇張などせずありのまま、儚いストーリーに華を添える珠玉の情景に感じられた。

そして、“食事が美味しそうに見える映画”に悪い作品はない!
この作品がまさにそれ。
二人で食べる朝食シーンは日本人からすると堪らないやつになっていて、白米のキラキラしたツヤに食欲を唆られてしまう。

不思議な縁で繋がった二人が過ごす一時、亡くなった彼女という共通点が紡ぎ出す想い。
行き場を失い、彷徨っている人間に血を通わすのは“新しい出会い”という普遍的な理をピュアに描ききった作品。言葉少なな二人芝居に魅せられ、人の温かみや描写の数々が心の琴線に深く深く触れてきた。
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