マグルの血

カラオケ行こ!のマグルの血のレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
3.7
ヤクザが中学生から歌を教わる話。

公開から配信まで早かったですね!
原作大好きです。和山やまの名作「カラオケ行こ!」は発売当時話題になり、「このマンガがすごい」にもランクインしてました。このランキングかなり信頼度が高いので毎年参考にしてるのですが、本作も非常に楽しめました。

原作はダウナーな空気感と絶妙な台詞回しでクスッと笑いを取るタイプのギャグマンガ。ヤクザと変声期の中学生の交流という珍しい設定。
ヤクザである狂児の落ち着いた物腰と独特な距離の詰め方に、主人公聡実は翻弄されつつも少しずつ心を開いていく。合唱部であるが故、声変わりによる歌唱力の限界に悩みながら、ヤクザとのふれあいを通して成長していく姿を描いたストーリーです。

よくある原作との比較ですが、本作に関しては原作を汚さずしっかりと独立した作品を築いているなという印象。
映画独自のストーリー展開は、原作と違い関係性の美化というか、原作をより誇張したようにも受け取れますが、そもそも原作コミックのダウナーでシュールな雰囲気とギャグは実写化に不向きな気がするのでこのくらいオーバーになるのは納得だし、個人的にはいやではなかったですね。
特に良かったのは狂児を演じる綾野剛の雰囲気。原作の狂児の謎の色気をしっかりと体現。似てる似てないはおいといて、キャラクターとして確立していて良かったです。

X JAPANもといXの代表曲である「紅」は原作でも歌われていましたが、紅にここまでフォーカスする演出は驚きです。リリックの翻訳や、歌詞とストーリーのリンクとは恐るべし。「中身ねえ」ってゲラゲラ笑ってた歌詞をここまで昇華するなんて…。

この頃のXってある種のマッチョイズムというか、世紀末、それこそ北斗の拳みたいな世界観っぽさありますよね…。逆立てた髪にハードロックファッション。「汚物は消毒だ~!」って言ってそう。
後のヴィジュアル系は耽美的な、中性的な美しさを表現している印象。すべてはXのhideから歴史が始まったわけで…とこの話はだるいので割愛ですが、わりと退廃的で世紀末的な世界観だったXのアルバム「blue blood」は特にこのヤクザのカラオケとの親和性が高いように思います。ここまでネタにできたのはすごい。

ちなみ私はそこまで狂児のカラオケ下手に感じませんでしたけどね。最初から。
終始裏声は気持ち悪いけど、ピッチあってるから少なくとも最下位になることはないのでは…?

あと、原作は「ほんのり香るBL感」も売りだと思ってるんですが、本作は少し濃い目にBL感でちゃってましたね。ほんのり、うっすらくらいがいいと思うんだけどな。

和山やま先生の他の作品も、ダウナーな空気感とほんのちょっとホラーな絵が繰り出すシュールコメディが中心。人間観察がよくできているというか、共感できる笑いが気持ちいいです。あとちょっとBLを感じさせる。

続編「ファミレス行こ!」もオススメです。


追記
原作を読み返したんだけど、映画観た後だとやっぱり印象変わりますね。
聡実君は原作の方がわかりやすいしコミカル。
綾野剛の役作りは原作とベクトルが近い上に自分なりのオリジナリティが出てるような印象。改めて凄い俳優だなと思いました。

2024年 38本目
マグルの血

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