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窓辺にてのtkykのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
4.5
今泉力哉監督の、複雑な人間の心理と関係性を描くという側面が職人芸の域まで到達したと思わせる作品だった。
妻に浮気されたのに悲しくない主人公という極端な人物を通して「好き」という感情の複雑さを浮き上がらせていた。主人公以外の人物たちもそれぞれ独自の「好き」という感情に向き合うことで人間の感情の複雑さを描いていた。主人公の感情を理解できない「普通」の人物でもそれぞれに色んな感情を抱く事が描かれる事で人間の感情や心理は画一的でなく、微妙なニュアンスの違いによって連続的に広がる多様なものである事が際立っていた。

共感しにくい主人公を演じた稲垣吾郎のハマり具合が本作を魅力的な作品にしていた。彼の言動や佇まいの全てが稲垣吾郎という人物のパブリックイメージにガッチリとハマって、共感しにくいはずなのに実在しているのではと思わせるような説得力があった。
主人公の市川は一言で言えばサイコパスみたいな人間だが、几帳面で誠実な側面が稲垣の普段のイメージと完全に一致したことで実在感があったし、市川が浮気された事に悲しくならないことにリアリティが感じられた。
彼の家の内装や飲食時の振る舞いも彼の几帳面さを示す上で細かいながらも効果的だった。

他のキャストも見事にハマっていた。若葉竜也はもちろんのこと、玉城ティナも安直な女子高生像に留まらない、癖のある人物を演じていた。その他には玉城ティナの叔父役の雰囲気も印象的だった。「普通」と違う人物である点では市川と同じであるが、市川と違って俗世を離れて1人で暮らしている点では市川以上に「普通」からかけ離れた人物である。それなのに彼の雰囲気は実在感があり、相異なる雰囲気が共存している点で実に魅力的だった。市川が初めて自分の悩みを他人に告白する相手が彼であるというのもとても納得できた。

今泉作品特有の長回しは今まで以上に観客を作品に没入させ、会話に聞き込ませる役割を果たしていた。

今泉作品でも屈指の良作だった。
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