ぶみ

千夜、一夜のぶみのレビュー・感想・評価

千夜、一夜(2022年製作の映画)
4.0
帰ってこない理由なんかないと思ってたけど、帰ってくる理由もないのかもしれない。

久保田直監督、田中裕子主演によるドラマ。
30年前、夫が突然姿を消し、生きているのかどうかすらわからないが、待ち続ける主人公等の姿を描く。
港町で暮らす主人公、登美子を田中、登美子同様、夫が2年前に失踪した奈美を尾野真千子、登美子に想いを寄せる漁師、春男をダンカン、奈美の夫を安藤政信が演じているほか、白石加代子、平泉成、小倉久寛、山中崇、田中要次等、ベテラン陣が登場、今をときめくような若手俳優が皆無である反面、危うい演技は一切ない出演陣の安定感たるや、観ていて安心できるもの。
物語は、夫を待ち続ける登美子と、新しい恋人ができたことから前に進もうとする奈美の姿を中心に展開、基本的に静かな映像が淡々と流れていくが、途中、奈美の夫を登美子が探すこととなり、サスペンス調に一瞬舵を切るため、終始飽きることなく、繰り広げられる人間ドラマに釘付けとなることに。
また、実際には佐渡島でロケが行われたとのことで、その地方独特の閉塞感は、やはり現地ならではの雰囲気であり、とりわけ春男は実際にいてもおかしくないようなキャラクターで、ダンカンがピッタリ。
何より、夫が失踪したという共通性はあるものの、タイプが違う登美子と奈美を田中と尾野がそれぞれ情感たっぷりに演じており、まるでドキュメンタリーかのよう。
また、物語の鍵を握るガジェットとしてラジカセとカセットテープが登場するため、それだけでも、本作品が私のようなある一定の年齢層以上をターゲットとしていることがわかり、確かに内容は大人の鑑賞に耐えうるだけの出来映えとなっている。
私が男なだけに、どうしても男性目線で観てしまうが、突如消えてしまいたくなることは、誰もが一度は想像してみることではないだろうか。
それを実行した挙句に巻き起こる、待たされる側の強さと儚さといった複雑な心情が、佐渡の港町を舞台に焙り出されており、静かな作品ながら、人間の本質を描いた良作。

不幸って言うか、特別に見られるのが悔しいだけです。
ぶみ

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