カタパルトスープレックス

東京の宿のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

東京の宿(1935年製作の映画)
2.9
小津安二郎監督の戦前後期のサイレント作品で人情劇。坂本武主演「喜八もの」の最終作。子供が遊ぶおもちゃに戦前のアメリカ好みの「小津好み」が残ってる。

喜八(坂本武)は女房に逃げられ、職もなく。昔馴染みのかあやん(飯田蝶子)とばったり再開して、仕事を見つけるが……という話です。喜八もかあやんも毎度のことながら人がいい。『浮草物語』(1934年)はジョージ・フィッツモーリス監督の映画『煩悩』が下敷きとなっていましたが、今回は小津安二郎(=ウィンザアト・モネ)の原案。つまり、オリジナル脚本。

色々と当時の風俗がわかりにくい部分があるかもしれません。喜八が惚れたおたか(岡田嘉子)は飯炊き女になってしまうのですが、お酌をする女性は売春もしていた。それが喜八にはいたたまれないわけです。かあやんにも恩義があるし、二進も三進も(にっちもさっちも)行かなくなった。

それでも飯炊き女になってしまうおたかが着ている着物はとても上品で高そうなのですが。この辺の、「実は高い着物を着ている」は戦後も続く「小津好み」の一つで、小津安二郎監督が描く家族ドラマは一種のファンタジーである象徴ともなってる。

翌年からいよいよトーキーの時代に入っていくわけですが、戦後の小津安二郎の原型は「喜八もの」から徐々にできてきた感じですね。本作は『浮草物語』と比べると一枚落ちる感じがするのでこの評価。

それにしても、当時は冷酒でもとっくりで飲んだんだろうか?ちょっと不思議な感じがした。