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わたしの幸せな結婚のドントのレビュー・感想・評価

わたしの幸せな結婚(2023年製作の映画)
3.9
 2023年。よかった。これはよかったね。異能や超能力、式神が飛び交う明治/大正ルックの「if日本」。名家に生まれながら幼くして実母を亡くし、義母らに使用人以下の扱いを受けていた美世は政略結婚のため、何人もの婚約相手が逃げ出しているという青年将校・久堂の元へ嫁ぐ。冷徹に見える久堂と虐げられてきた美世は次第に心を溶かし合い、それはさておき都では死霊が解き放たれ、闇の者どもが暗躍し、時代が蠕動しはじめていた!
「不幸な生い立ちの女がツンケンして見えるイケメンに嫁いで、色々あって結ばれるまでの恋愛物語」を前景に、「異能力者が采配を振るう日本が、最高権力者の死と共に揺れ動きはじめる」という後景が繰り広げられるファンタジージャパン映画。この前景と後景を「恋人は怪奇専門の特務班の隊長で、無能力と思われていた主人公には国も揺るがしかねない凄い力を秘めていた」という設定で接続する。
 無茶としか言いようがないこの設計図の建物が、なんと見事に建ってしまった。まず大前提となる「if日本」が強固に、確固として作り上げられ撮られている。ハリボテのコスプレ祭りに陥りがちなこの世界がロケ、建物、大道具小道具、的確なCGなどによってきっちりと成立しており、安っぽさがまるでない。当たり前っちゃあ当たり前なのだが、これがしれっとできる邦画がどれだけあるだろうか? 
 見た目、ルックだけをベタ塗りにした仕事ではこうはならない。家や街には生活音が溢れ、店には物音や人々の声がある。ガラス戸の向こうに古めかしい車がザッと走り去る。ファンタジーとして、あるいは異様な世界としての「if日本」が丁寧に切り出され、彫られ、細部まで気を配って創造されている様にホレボレとした。また異能や異形、その強さ危なさも、出番は少ないが全部がキマっていて現実に引き戻されることがない。
 普段はごくさりげなく、そして異様な時と場所では異様に切り取る撮影や照明なども、世界をより強く支えている。CGやVFXも同様。これらの下支えがあれば、舞台上での多少の無茶も通るというもの。というわけで恋愛7、伝奇3という無茶も、やはりかなりの無茶とは言え、どうにか押し切ってしまう。というか王道ですからね。超能力を秘めた「おしん」の話ですから。ほら人類って『おしん』が好きでしょ(断定)。いじめられた女の子がスーパーを経営するかスーパーパワーを発揮するかの違いですよ。
 冒頭の世界観説明や、独白に寄りかかる嫌いもあれど、出演者たちの抑え気味の、役者としての雰囲気、演技力よりは動きに多くを負った演出・演技もうまいもので、台詞に頼らないのがいい。瞳や目線、手や指や足、これらがちょっと動けばよい、という自信がある。画面が全体に豊かで、幸せになる。
 一方で数少なくも魅せてくれるはずのアクションやバトル、クライマックスにはちぃと物足りなさを感じた。「風を操る男の力で頬が切れて血が垂れるも動じないイケメン」とか大変なショットがあるのだが、充実してればもっと大変になってたはず。たとえば美世がラストに一発こう、ガツンとぶちかましてくれたら座席でガッツポーズしていたと思う。惜しい。実に惜しい。
 とは言え恋愛7の映画であるからしてこれは無い物ねだりかもしれぬ。恋愛映画としてコテコテに盛り上げるのではなく、「……じゃ、そういうことで!」くらいで終わらせるのも素敵で、その小さな幸福ぶりに泣かされ、タイトルを思い出してまた泣かされた。でも続編ではアクション倍増しを期待している。だって観たいでしょう……傷ついた軍服を破って肩を出して刀を握る目黒くんとかそういうの……。おまけ映像では闇の組織とか出てきたし。とまれ、練り上げた嘘の世界を見事に捉えている、という点において傑出した邦画の一本であった。よい映画でした。
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