レインウォッチャー

ジャバーウォッキー 4Kレストア版のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

4.0
思い通りが幸せなんて限らない。

時は中世、暗黒時代。村々は人喰い怪獣に脅かされ、富のある人々は高い城壁の中の町に逃げ込んだ。樽職人の息子、デニスは父の死を機に町を目指す。しかしなぜか、あれよあれよと怪獣討伐に巻き込まれて…?

ジャバーウォッキーといえば、ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に登場する詩にルーツをもつ。詩はキャロルによる造語の数々を駆使して書かれた奇天烈なもので、古今東西に至るまで数多の翻訳者を悩ませ、その結果たくさんのバリエーションが生まれ、言葉が持ち得る自由な可能性をわたしたちに教えてくれる。
今作は、その詩の内容から発想を広げて英雄冒険譚コメディに仕立てたもの。怪獣のデザインも、『アリス』の挿絵をベースにしたアレンジになっている。

だからこの映画もまたナンセンスなのだ…とか言うとちょっと格好つけすぎだと思うけれど、そう言いたくなるくらいのクセもクセ、乱痴気騒ぎの大盤振る舞い。ほとんど、R15版吉本新喜劇である。モンティ・パイソン明けってことも作用したのだろうか。

もうこの泥や血に塗れた不潔で臭そうな世界からしてテリーギリアムワールド全開で、嬉しくなってしまう。今作は幻の単独監督デビュー作とのことだけれど、ずっと変わってないんだなあ。
彼の世界はたとえ未来(『未来世紀ブラジル』とか)でも現代(『ラスベガスをやっつけろ』とか)でも、常にフリーキーで猥雑。人やモノが散らかり、埃が舞って日当たりは悪い。
そこを今作は中世ヨーロッパだから、ここぞという感じだ。絶滅したサーカスを覗くような黴びた後ろめたさと、庶民の生活にある哀愁と背中合わせのユーモアが、既にここでは完成している。

「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺があるけれど、それに倣うなら
「親父が死ねば樽屋が怪獣を倒す」
とでもいおうか、主人公デニス自身の目的とは別に偶然のピースが次々はまっていき、やがてはベタもベタな結末に行き着く。

それは誰が見ても「めでたしめでたし」な、全てが手に入ったようなENDなのに、渦中のデニスは最後まで納得がいっていない風なところにスパイスが効いている。彼は単に、儲かる樽屋になりたいだけだったのだ。
劇中では怪獣によって無惨に壊滅する集落がある一方で、怪獣効果で私腹を肥やす貴族や司祭もいたりする。英雄となるべき馬上の騎士は素顔も見せず、無為に殺し合う(※1)。

わたしはこのたび初めて立川のキノシネマを訪れたのだけれど、この映画館は高島屋の上にあった。こんなパンクなドタバタを人民の財の象徴たるデパートの上に尻を乗っけて観ているとは、なんだかそれも冥利に尽きるなあ、なんて思ってしまった。
あと、座席が空間豊かでふっかりしてたしリクライニングとかして快適だった。全国ああなればいいのに。(まさかの座席END。)

-----

円盤化される予定もないってほんとなのだろうか。これまでもVHSが出てるくらいらしい。クラファンがあったら出資するのに。
今年、まだこのあとも暫く各県をまわるみたいですね。

-----

※1:ギリアムは後年の『フィッシャーキング』でも、主人公(ロビン・ウィリアムズ)を狂気の世界で追い詰める象徴として騎士を登場させている。なんか嫌な思い出でもあるんだろうか。