「女は顔を伏せ近づく機会を男に与えるが、男には勇気がなく女は去る」
印象的なテロップで映画は幕を開ける。バックグラウンドには、過ぎ去りし日の香港を思わせるレトロな音楽が流れる。まるで60年代・香港が眼前に広がるよう。
「ガラス越しにぼんやりと見える幻は触れることのできない過去」
決して取り乱さない、節度の保たれた、ビターな甘さのする大人の恋愛映画。雨宿りをするように、2人は静かに身を寄せ合う。
赤と緑に統一された美術、衣装、照明が映画全体を恍惚とした雰囲気に包んでいる。それらに加えて音楽、メイクアップ、風俗描写が丁寧に時代を再現している。
激情の赤と、反対色にある安らぎの緑。募る愛情と、一歩踏み出せない大人の慎み深さ、もどかしさ。
『花様的年華』が流れる場面のカメラのパンや、2人が逢引きする前に男がタバコの煙を吐き出す場面のスローモーションなど、基本的な映像技法を効果的に用いた監督の演出が実に巧みだった。
男の妻と女の夫がついぞ姿を現さなかったことの驚き。映画は、2人だけの世界に深く没入していく…
久しぶりに比較的長めのレビューを書いてみました。
レビュー文が長い映画＝感情がたくさん溢れ出た映画、つまりお気に入りの映画。
