マインド亀

“それ”がいる森のマインド亀のレビュー・感想・評価

“それ”がいる森(2022年製作の映画)
1.0
Jホラーの創造主が、今、Jホラーの息の根を止めにかかる

●2022年に、『怪獣のあとしまつ』といつ盛大に叩かれまくった作品があったのは記憶に新しいところでございますが、こちらのほうが、一段と問題だと思うんです。
この作品を半笑いで「面白い」と評する人もいますが、どう考えても本作は『トンデモ映画』の範疇でもないでしょう。ぶっとんだ部分も何もないし、だったら『怪獣のあとしまつ』はもっと褒められるだろ、と思うんですけどね。
本作のやばいところをいろいろと突っ込んでレビューしようと思ったのですが、もうそれをしてることすら時間の無駄にしか思えないんですよね。ありとあらゆる人が、そのツッコミを面白おかしくしてるんで、もうそれを見たり読んだりすればいいかと。
問題は、なぜ中田秀夫がこういう作品を作り続けられるのか、仕事のお鉢が回ってくるのか、そしてなぜ彼はこうなってしまったのか。これを問い続ける事の方が大事な気がします。

※あくまでもエビデンスなしの邪推な私の想像なので読むに値しない文章だと思ってください。

●ここ10年前後の中田秀夫監督の12作品(『それがいる森』から『インシテミル』まで)を振り返ってみると、『クロユリ団地』『スマホを落としただけなのに』シリーズ2作、『事故物件 恐い間取り』のホラー作品4作品と、『インシテミル』が興行収入10億円を越すスマッシュヒットなんですね。
やはり、『リング』の中田秀夫のホラー作品といえば、信頼されているブランドとして定着していると言っても良いかもしれません。
しかしながらこの12作品全てが良作とは言えないのも事実でしょう。どの作品も作品の評価は芳しくなく、普通なら中田秀夫ブランドの低迷が起こってもおかしくはない状況だと思うわけなんですが…

●で、この毎年作られるホラームービーの客層を考えてみます。当然、『女優霊』や『リング』などのJホラー創世記を観ていた世代の殆どは、よっぽどの映画ファンやホラーファンでもなければ、毎年ホラー映画を観に行くことなどないでしょう。で、どんな層が邦画のホラーを見に行くかと言うと、おそらく中学生から大学生くらいまでのデートムービーや友達とキャッキャ観たい層なんじゃないかと、(※全くのエビデンス無しで)想像するのです。
そこで近作の中田秀夫監督のキャスティングですが、今若者に人気の、と言われると大体名前が上がる程度に有名な若い俳優がキャスティングされ、さらに前作『事故物件』で藤島ジュリー景子と組んで、ジャニーズの亀梨和也を主演に20億を越す割と大きなヒットを飛ばすわけです。

●『恐い間取り』のヒット要因は決してジャニーズキャスティングだからというわけではないです。『間取り』や『事故物件』というホラーの新機軸が原作に盛り込まれていたことと、それをどうやって映画にしたのかという興味を惹いたということもあります。
ですが、『事故物件』で気を良くした松竹のお偉いさんたちが、そのヒットのお陰で「じゃあ次もジャニーズ俳優で似たようなホラーを」となりますわな(※妄想です)。

●(※何度も念を押すようにあくまでも想像ですが、)中田秀夫監督は既存のJホラーには飽き飽きしていた頃なんじゃないでしょうか。どんなに怖い映画を作ってもそれは『リング』のエピゴーネンにしかならず、そんな作品に今の若者がこぞって見に来るわけでもなく…
この頃から中田秀夫監督は「怖・ポップ」とか「ホラーエンタメ」とか言う言葉を使うようになってて、要は、「怖いだけじゃ誰も観に来ねえ」し、「薄味ホラーのほうが儲かる」という結論に至ったのだと思います(※想像です)。

●で、「それがいる森」を観ればわかると思うのですが、作品制作にかかるコストをかなり抑えているんじゃないでしょうか。
もうおそらく脚本はほぼ初稿みたいな感じだし、クリーチャーデザインもそのままの「それ」だし、「それ」が乗る「アレ」もそのままだし…作りも殆ど「世界まる見え」とか「アンビリバボー」の再現VTRレベルだし、エンディング観ててもあまりにも関わった人の数が少なすぎる。(そのクセお偉いさんのような人たちは多すぎる。)
その上、役者の演技は殆ど一発撮りじゃないでしょうか。演技指導とか演出とか何もやってないんじゃいですかね。そこまでしてコストを抑えてるのか…と思えるくらいひどい。
で、ここまで経費を抑えると、おそらく初週土日興収でお釣りが来るくらい儲かってたりするんじゃないでしょうか(※根拠なし)。

●つまり、「駄作を作っても大体儲かる」仕組みが出来上がってしまってるんじゃないかと思うのです。カモになるのはジャニーズ俳優に釣られ、普段映画を観に来ないデートムービーもしくは友達ムービーとして見にくる若年層。そして本作は更に範囲を小学生にまで広げだした…そんな勝手な妄想が広がるくらいひどいんですよね。

●おそらく始まりは『It それが見えたら終わり』あたりのジュブナイルホラーが出発点だったのかもしれません。(※中田秀夫監督がインタビューで、『スタンド・バイ・ミー』を意識して作った、と言ってるから遠からず意識してるでしょう)で、日本で土着的に怖いモンスターの舞台があるのはどこ?って探してみたら、「福島は○○○目撃の多い伝説的な土地」だってわかったんでしょうね。
(※これもインタビューで、『企画そのものが、“それ”ありきではじまったのです。実際にある森で、映画そのままではないけれど、多くの目撃情報があるということで、「事故物件 恐い間取り」の秋田プロデューサーたちが企画を自分に持ってくる前に現地に行ったそうです。話を聞いて、「“それ”についての映画をどう物語化するか」と思案しました。』と言ってるのでほぼ当たりだと思います。)
恐るべきことに本作と内容が丸かぶりの『NOPE』は制作時期が重なってるので影響下にはないでしょうが、おそらく制作陣は「やった!このジャンルで正解!」とよろこんだでしょう。(すいません、参考映画作品名を出すだけでネタバレですね…)

●おそらくこういうホラーは毎シーズン毎シーズン作られることでしょう。あいにく同じJホラーの始祖である清水崇が「村」シリーズで同じような若者向けホラーでヒットを飛ばしてますし、若者のデートムービー=ホラーエンタメって土壌が仕上がってしまってますしね…中田秀夫監督のインタビューを読んてても、清水崇の「村」シリーズへの共鳴を明言してますしね。

もう二人でいっそのこと日本のホラー作品の息の根を止めて欲しいくらいです。

●映画館での宣伝もひどかったですよ。よくあるティーンたちへの街頭インタビューで「『それ』ってなんだと思いますか?」みたいな質問をして、「実は『それ』は…○○でした」で「うっそー」「キャアキャア」ってなる宣伝だったんですけど、この映画の内容見れば、「んなわけあるか」ってなりますよね。
劇中で相葉くんが「今までに見たことのない奇妙な生き物」って言いますけど、嘘ですよね。生きてりゃ普通に見たことある姿でしょ、アレ。もう既にアイコニックな姿過ぎて、出てきたときは、『NOPE』みたいに、「実は隣の家の子供のイタヅラでしたー」ってなるのかと思ったんですが、全然そんなことない(笑)そのままストレート。
「アレ」について、エリア51やら『未知との遭遇』がないパラレルワールドなのかと思いましたが、小日向文世の家に「ムー」が置いてありましたからね。あ、もうここまで書くとネタバレしてますね。まあいいや。
とにかく、この内容で、恐怖の存在が何かを引っ張るのは無理と判断されたんでしょうね。宣伝もかなり苦労したんでしょうね。

●最初は中田秀夫監督が、なかなかやりたいことが出来ずに、配給会社の論理で職人仕事をやらされてモチベーションが下がってるんじゃないかと心配していたのですが、インタビュー記事とかを読んでるとそんなことでもないような気がします。(清水崇監督とともに)アメリカを経験してすごく意図的に薄味のホラーに傾倒しているような感じなんですね。心配して損した。

●まあ、『それがいる森』も大コケしてますし、その後の『禁じられた遊び』も大コケのようですから、まあそのうち中田秀夫監督のスマッシュヒット神話も流石に崩れていくでしょ。
お願いなんで、あの頃の中田秀夫監督が戻ってきて欲しい、そう願わざるを得ません。
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