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Twilight(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Twilight(英題)(1990年製作の映画)
4.5
[タル・ベーラ世界で犯罪捜査] 90点

大傑作。社会主義政権が崩壊した90年代ハンガリー映画界でタル・ベーラと並び称される監督がフェヘール・ジョルジである。元々は舞台の芸術監督であり、ヤンチョー・ミクローシュ『Season of Monsters』を含めた少なくない作品で俳優として出演した経験もあり、ブダペストスクールのメンバーと共に短編ドキュメンタリーやTV映画を多く監督してきた人物である。そんな彼の初長編劇映画が本作品だ。タル・ベーラと並び称される理由は一目瞭然、地獄のような空間を息の詰まる長回しで収めているという、ほとんどタル・ベーラそのものなのだ。ただ、タル・ベーラよりも接写に対するハードルは低いようで、ヤンチョー・ミクローシュばりのロングショットから少女がカメラまで近付いてくる長回しなど、タルでは観られないような縦方向の空間の使い方が上手いカットがあるなど、やはりタルとは違う部分もあるのが興味深い。ちなみに、『サタンタンゴ』や『ヴェルクマイスター・ハーモニー』などタル・ベーラ作品とキャストも結構被っている。

ハンガリーの田舎で少女が殺害される。同級生たちは彼女が現場付近で"巨人"と出会い、小さなハリネズミを貰っていたと証言するが、それ以上の成果は得られない。捜査官は行商人として通りかかった小児性愛の前科者で第一発見者の男が犯人だと睨むが、尋問中に自殺してしまい、更には事件はまだ続いていく。全体のセリフ量は犯罪捜査とは思えないほど少なく、必要最低限すら下回っているので、本作品の詳細な流れはフリードリヒ・デュレンマットによる原作『It Happened in Broad Daylight』(映画用脚本)を観てようやくクリアに理解できるようになる。しかし、徹底的に情報が削ぎ落とされた中で"小さなハリネズミ"の正体が判明し、画面に登場したときの感動は、自分が捜査官として思いついたときと同じくらいの衝撃があった。

鑑賞環境は最悪で、あまりにも画質が悪かったが、その怨霊でも込められたかのような映像は、逆に地獄のような風景としっかりとマッチしていた。
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