ミーハー女子大生

今夜、世界からこの恋が消えてものミーハー女子大生のネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

【あらすじ】
クラスメートに促されるまま、神谷透(道枝駿佑)が日野真織(福本莉子)に嘘の告白をすると、彼女は本気で好きにならないことを条件に交際を承諾する。
やがて互いを知るにつれ、透は本気で彼女に惹かれるようになるが、真織は一日ごとに記憶を失ってしまう難病「前向性健忘」であることを明かす。
記憶をつなぎ留めようと一日の出来事を日記に記す彼女に対し、少しでも幸福な時間を過ごしてほしいと願う透だったが、自らも重大な秘密を抱えていた。
真織の幸せを守るため、透はある計画を練る。

【感想】
物語のプロットとしては、最早古典レベルの「その日だけの記憶喪失」とか、「難病で死んでしまう」というこれまでの恋愛ドラマのパーツを組み合わせたもので、本作のサプライズは「透の方が消える」というものだろう。
だが、予告編でも透が消える演出というものがきちんとネタバレしているので、あの予告編を観た人は映画にサプライズを感じない。
また、前半の貼り紙が「手書き→印刷」に変わっていることがすぐに分かるので、その事情を考えると、「どのようにして透の記憶を消す必要があったのか」というのがミステリー要素になっている。
だが、この要素も「母親の病気」というもので仄めかされていて、透が泉に約束を告げるシーンで明かされてしまう。

涙腺崩壊系の物語ではあるものの、この映画では主人公カップルの悲哀で泣く人よりも、泉ちゃんに共感して泣く人の方が多いような印象。
映画では控えめに描かれているが、おそらくは三角関係に陥っている状態なので、泉が真織から透を奪おうとする展開になるのかと思っていた。
だが、登場する人物は全て聖人君子で、欲が全く無い人物描写になっているので、そのあたりには深みがない。
現実問題を照らし合わせるまでもなく、泉は青春の多くを真織との時間に割いていると言えるし、彼女自身も恋人ができてもおかしくない年代でもあって、そっち方面が全く描かれないのは不思議だった。
また、ここまで泉が真織に尽くす理由がわからず、それ以上に透の背景の方を重視して描いていくので、ミステリー要素も含めてバランスが悪く感じる。

この映画では数多くの視点が描かれるのだが、「健忘と向き合いながら記憶を取り戻しつつある真織」と、「人生を賭けて真織に尽くした透」という二人を「ずっと見てきた泉の視点」というものが観客の目線に一番近いはずである。
なので、彼女がもし透のことを好きだとしたら、自分の心を押し殺してまで二人の恋愛を応援する苦しみであるとか、透の死後に約束を果たすための葛藤というものの大きさこそが、この映画のメインテーマであると思う。
真織の人生に透を取り戻させるのか、それとも自分の心に正直になるのか、という部分はとても重要なので、もう少し泉の視点を前半から描くべきだったように感じた。

映画の中で最も大きな変化をするのが主人公で、その心情に寄り添える存在であることが必要である。
となった時、誰もが感じ得ない「健忘による葛藤」とか、「人生の全てを恋人に捧げる」という「感情のままに生きる」とかよりは、そういった人生を支える側(自分の感情を押し殺す側)というものの重みが一番伝わりやすい。
なので、原作はどの視点になっているかは分からないのだが、映画の後半に泉目線に完全に移行するのであれば、泉自身の心情であるとか、泉と真織の関係の深さというものをもう少し丁寧に描くべきであると思う。

映画はジャニーズ映画で、売り出し中の若手女優さんを配置するという構図。
それだけでは物語に深みが出ないため(演技力の話)に、実力派の古川琴音さんを配置している印象が強いので、そのバランスを忖度抜きで描ける度量があれば神映画になれたのではないかなと感じた。
その辺りを描きたい葛藤がありながらも、主演二人を際立たせるという難題に直面していると思うので、製作者側が本気で作れば別の映画になったのではないかなと思う。

いずれにせよ、そこそこ泣けるけど泣くに至らないのは、共感性の低い透と真織の恋愛がメインになっているからであると言える。
こう言ってしまうと元も子もないのだが、映画のテイストは真織の日常(回想録)を描きながらも、「泉がその時(日記を彼女に返す)に向かう物語」になっている。
故に、なぜ「貼り紙を印刷に変えた」のかとか、「真織の日記を泉が持っている理由」の方が物語の芯になっていることを考えると、「泉の物語内の葛藤が起こる理由」というものをきちんと描かないといけない。
そうなると、事故以前の泉と真織の関係を描くシーンが必要で、それが完全に抜け落ちてしまっているので、泉がどうしてそこまで真織の人生に関わろうとするのかという起点とか深度がないのは微妙だと思う。
映画は美しい世界を切り取っているが、特殊な二人が成人君子だとしても、泉だけは人間として描かれているので、透との感情とか関係性の変化などがそれほど丁寧に描かれているとは言えないのは少し残念でした。

ストーリー 4
演出 4
音楽 3
印象 4
独創性 4
関心度 5
総合 4.0

34/2023