カタパルトスープレックス

暖流のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

暖流(1957年製作の映画)
3.9
大天才増村保造監督の第三作目にしてすでに特徴が現れた病院における人間ドラマです。第一作目『くちづけ』も第二作目『青空娘』もかなりベタなドラマでした。これもベタといえばベタなんですが、増村保造監督が描きたかった「日本的で情緒的な関係ではなく、個人の意志」がちゃんと表現できてるんですよ。

放漫経営で倒産の危機に瀕した病院。その医院長の志摩博士。自身も病床にあり立て直す目処が立たない。そんな博士に再建を頼まれた日疋祐三(根上淳)はどんどんと改革を進めていきます。果たして病院は再建できるのか?と言う話です。

なんと言っても左幸子です!改革を進める日疋祐三の目となり耳となり、献身的に尽くす石渡ぎん(左幸子)。しかし、日疋は医院長の娘、志摩啓子(野添ひとみ)が好きになってしまいます。石渡ぎんは「そんなの関係ねえ!!!」と小島よしおのように日疋一筋。一点の曇りもない。いやあ、ここまで一直線にホレられたら、どんな男だって(たぶん)落ちますよ。すごく増村保造監督作品らしいキャラクターです。

そして、放漫経営の原因の一人である長男の志摩泰彦を演じる船越英二も素晴らしい!なんたる浪費家!なんたる楽天家!この人も悪い人じゃない。一点の曇りもなく自分の欲望に素直な人。ただそれだけなんですよ。この人もすごく増村保造監督作品らしいキャラクターだと思います。つまり、他人に忖度などせず、自分らしさを突き抜ける人たち。

この作品にはそんな人たちがたくさん出てくるんですよ。すげえな、すでに増村保造を作っちゃってる。ベタなドラマなのに、アッケラカンと我が道をゆく人たちしか出てこない。そこが新しい。のちの『妻は告白する』とか『清作の妻』みたいな凄みはないけど、その原型はこの作品の中に見出すことができます。