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コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのazusaのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

映画としていろんな要素を盛り込みすぎだと思う。まずロジックに少し語弊がある。結果として死者が出なかったから無資格で施術することを肯定的に描いているが、そもそも無資格の人間が施術するということにあまり共感を得られるとは思えず、ここは本作の満足度を大きく左右する要素になってしまっていると思う。作中、一言でも本当は現状を望まない旨を示す台詞があれば緩和されたかもしれないが、むしろ積極的にしかも簡単だと言い切らせている点がどうしても感情にざらつきを残す。そしてディーンへ依頼の仕方が脱ぐということなのも結構きつい。実際そうだったのかもしれないが、脱いででも要求を飲ませたい、なりふりかまっていられないという切羽詰まった感じはあまりしなかった。そして極めつきは無料施術の対象者を最初こそ無作為であるべきと言っていたバージニアが、グウェンに詰め寄られた途端黒人女性を優先するつもり、に変わってしまうこと。いやいや無作為であるべき、どう考えても。それにレイプされた人を優先すべきとも思う。それをころっと変えてしまったバージニアというキャラクターには何よりもここで失望した。次に脚本について、最初はジョイ個人の物語かと思きや、次第に主軸がジェーンに移っていく。そこはいいとして、ラストに捲し立てるようにその後のジェーンが辿った道を示すのは良くない。結局ジョイがどういう役割を果たしたのかよく分からない。功労者は具体的には彼女の夫では?とも言いたくなる。そしてなぜ作中どっちつかずだった夫と娘がジョイやジェーンに理解を示したのかも省かれていて、ここもご都合主義な脚本だと思わざるを得ない。ジェーンという団体を知るきっかけとしても、もっとジョイの内面を繊細にしっかり描くべきだった。このジョイの描き方では何だかんだ言っても金持ちの夫にごめんなさいって言えば帰る家がある人という印象で終わった。本作は日本公開にこぎ着けるためのクラウドファンディングのときから期待していたものの、ふたを開けてみればあまり見応えがあるとは言えず残念。とはいえ女性に自らの体の決定権がない暗黒時代においても、このような中絶施術をしてくれるレジスタンスがいたことは、いつの時代も中絶は女性の権利として必要であることに変わりはない証明だろう。無資格での施術もやるしかないから仕方なくやっているなんてことは百も承知で、そこをつつくのではなくそもそも中絶を禁じている国を断罪すべきだし、中絶が必要な女性が限りなくいる中で机上の空論は何の解決にもならない。
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