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X エックスのtkykのネタバレレビュー・内容・結末

X エックス(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

あらすじだけ読むとありきたりすぎるホラーであり、実際に観てもホラー演出はごく普通だが、本作のテーマはA24製作とあって普通のホラーでは見かけないものになっていたし、それを古典的なホラー映画のあるあるを再解釈する事で描いているのは見事だった。

古典的ホラー映画のあるあると言えば、若い男女がいかがわしい行為をしているところに殺人鬼が現れて無惨に殺されていくというものである。本作もポルノ映画を撮影しに若い男女がテキサスの田舎にやってくるところから始まる。前半はとにかくセックスしまくりであり、あるあるすぎる展開に若干のテンポの悪さを感じた。

しかし後半になって老婆が動き出してからが本作のポイントだった。かつての若さや性的魅力が無くなったことを嘆く老婆はそのやり場のなさを解消するかのように人を殺しまくる。
それだけでなく老婆は若さを取り戻したいがあまり、寝ているマキシーンの横に寝そべって彼女の若い素肌を堪能しようとする。その姿は殺人鬼とは違う不気味さや怖さがあった。その上年老いて心臓が弱った夫のハワードに対してセックスをすがり、前半の若者同士のセックスとはあまりにかけ離れたセックスが行われる。これらの場面は「高齢者の不気味さ」や「老いの悲痛さ」が生理的な嫌悪感や恐怖になっており、この点で普通のホラーとは違う怖さがあった。

これらを鑑みると若い女性が「良きもの」として消費されてきたことが逆説的に浮かび上がる。
若い女性の裸体が見られるポルノ映画がヒットするというプロデューサーの目論みはもちろんの事、若さや若い頃と同じように求められる事を望む老婆の姿はいかに女性の若さが良いものとされていたかを物語っている。
さらにメタ的に考えると現実のホラー映画自体が若い女性を性的に消費している事も古典的なホラー映画のプロットをなぞることによって描いている。
しかし性的な欲望を消費する事を批判するというよりもむしろ人間が本能的に持っている性的欲望を自覚することを説いているようだった。冒頭からキリスト教福音派の演説番組と思しき映像が何回も映される。その中では性的にみだらな人間を批判しているが本作はそういった福音派の考えるモラルを真っ向から否定している。それが主人公の最後の一言で決定的となる。その点でもチャレンジングな作品だと思う。

本作は古典的なホラー映画のオマージュがちりばめられている。「サイコ」や「シャイニング」、「悪魔のいけにえ」等が思い浮かぶが内容としてはシャマランの「ヴィジット」に非常に近いと感じたし、ある展開は「ドント・ブリーズ」みたいだった。

色んなホラー映画を彷彿としながらも明確な視点が込められている辺り、A24の作品らしいと思う。

ps ななまがりのおばあさんのネタが思い浮かんだ
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