nanochi

TAR/ターのnanochiのレビュー・感想・評価

TAR/ター(2022年製作の映画)
3.8
リディア・ター。ハーバードを出て、エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞全てを受賞した作曲家であり、またベルリンフィルの指揮者として唯一無二の華であり・・と、割と長めの自伝的インタビューシーンから始まる。
彼女はベルリンの華であり、権力であった…がしかし、その権力を振りかざして横柄に振舞ってきた彼女の扱いは、一度皆が掌を返すと冷ややかなものに変わる。悪意にハメられた側面もあるけれど、わりと因果応報とも言えるから複雑な心境で見てしまう。とはいえ私は正直、ターの、相手を理詰めにする性格を忌み嫌うことも、責めることもし切れない。バッハをキャンセルする時代なんて心底バカバカしいと思うし、正論も言えない世の中ってなんだよ?と思う。
音への不寛容さと何度も手を洗ったりサニタイズするシーン、潔癖だという描写が、緻密すぎるバランスの上に成り立っている、アーティストと呼ばれる人にはありがちな行動を示していて、しかし絶対に受け付けない強固な意思を感じる。しかしある決定的なシーンから弱さがぼろぼろとあらわになり、もう痛々しくて、見ていられない、こういうの、感情移入してしまうのでとても苦しい。苦い。
ブルージャスミンの時もだったけれど、バーキンがどこかトロフィーにしがみつく姿を示すよう。TARは、ARTなのか、RATなのか。この先のこと、怖くて知りたくない。
nanochi

nanochi