ぽん

ティルのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ティル(2022年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

1955年のアメリカ、ミシシッピー州で起きたリンチ事件を取り上げた作品。
黒人の少年が白人女性に口笛を吹いただけで殺されるという怒髪天のハナシで、しんどかった。しんどかったけど、メインで描かれているのは少年のお母さんのメイミーなんですね。彼女はこれをきっかけに公民権運動に深く関わるようになる。一人の女性活動家の誕生エピソードとしてのエメット・ティル事件を描いているので、政治的な側面に焦点をあてている。突然の不幸に見舞われた母親とその家族の物語として、過剰なドラマチックを演出してはいないので(もちろんその辺の描写もあるけど)、個人的には見やすかった。

すでにその頃には黒人のための人権団体があって、エメット少年の死後すぐに動き出す。団体幹部にメイミーを紹介してくれた男は、理知的かつパワフルな彼女を見込んで、一緒に活動しないかと誘ってきたり。いや、息子の死を悲しみ悼んでいるさ中の母親にそれ言うかって感じなんだけど、この悲惨な事件は世論を動かすチャンスなんだと食らいつくのも分かる。そうやって世の中は動いてきたのだなと思うし。

リンチ死した息子の変わり果てた姿を、敢えて公開しようと棺の蓋を開けたまま行われた葬儀もかなり政治的だと思う。いや、それぐらいやったれやって鼻息荒く観てましたが、さすがに、少年が拉致られた現場にいて必至に止めようとしたけど力及ばなかった奥さん(メイミーの親戚)が、その棺を覗いて泣き崩れるところは耐えがたかった。

北部生まれの少年が、南部の黒人差別の苛烈さに余りにも無知で、無防備で、悪気なくやってしまった(むしろ好意的だった)行為が、こんな惨劇を生むとは。実のところ、あの白人たちってもう狂ってるとしか言いようがないので、狂人相手に常識なんて通用しないんだから、瓜田に履を納れず李下に冠を正さずじゃろがーって、エメット少年にイラっとしてしまったのも事実。そして、そんな不条理に屈してしまう奴隷根性の自分もなんだかなーの気持ち。

最後にはお決まりの、この事件が推進力となってなんちゃら法が通過しましたーみたいなテロップが出てくる訳ですが。なんかテヘペロな印象になるのは、現実はどうなんだろねってところなんですよね。2022年の反リンチ法可決って何?って思う。え、たった2年前?それまではどうだったのよ。BLM運動があってようやくなんですか・・・。

そして、くだんの口笛吹かれた白人女性をやってたのが、「スワロウ」(2019)のヘイリー・ベネットで。あのシラーっと睥睨する涼し気な眼差しがこんにゃろめ感をかき立ててくれて、あっぱれなヴィランぶりでした。
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