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VORTEX ヴォルテックスのギルドのレビュー・感想・評価

VORTEX ヴォルテックス(2021年製作の映画)
3.9
【死の霊的存在に憑りつかれた老夫婦の不可避的堕落】
■あらすじ
映画評論家である夫と元精神科医で認知症を患う妻。
離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。
心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。

そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。

■みどころ
衝撃的で前衛的な作品でした。

老夫婦の死に様を描いたお話で、物語の序盤より2つのスクリーンに分割して老夫婦の生活様式を映すのが特徴的な映画である。
映画は一貫して老夫婦のそれぞれがどのように亡くなるか?に向けた生活を淡々と映していて、時間が経つにつれて生活様式が変遷していく。

物語は「人生は夢 夢の中の夢だ 命は儚い」といった死を連想させるシーンから始まる。
老夫婦の幸せな生活から物語は始まるがスクリーンが二つに分断され、妻が買い物をしに外出して行方が分からなくなるところから事態が少しずつおかしくなっていく。
夫は映画評論家で「映画と夢」に関する書籍を執筆しているが、彼はその書籍を書く中で映画を観ることと夢を見る事は本質的には同じ営みである事を力説していく。
そんな中で認知症である妻の事を薄々気づきながらも、夫なりにサポートをしていく生活をしているのだ。
それでも妻の認知症は徐々に悪化し、息子が来ていることに怯えて家の中にいるのに家に帰りたいと泣きついたり、精神的に不安定になったりする。
やがて夫から掃除しなくてもいいよと言われた仕事場を掃除し始めるが…

本作は老人が亡くなる過程をじっくり描いているが、その過程の中で冷徹な眼差しで「死が人に与える影響」を描いているのが不謹慎であると同時に恐怖を植え付ける映画に感じました。
そこが不安で怖いけど、同時に気味の悪い映画という複雑な気持ちにさせてくれる。
映画の序盤にテレビより「死は霊的存在だ」という説明をされる。その説明の如く「死」が幽霊のように誰かに憑りつく事で幻想を払拭していく姿を描いていて、そこが見どころだと思う。
特に夫は映画を観ることは夢を観る事と同義であると述べるが、「死」という存在がゲームチェンジャーとして映画を観る事への意味・拠所を大きく操作する。
献身的な夫が「死」という存在によってHPの摩耗だけでなく、性格・倫理観をも大きく変える事を明示してそこが怖い。
しかも、夫も妻も互いに「死」によって不可避的に堕落していく事を観測し、それに戻れない事へ悟るシーンが互いに見られ、そこもまた生き死にしているような感覚になるのが凄かった。

生気が徐々に失い、徐々に堕落していく姿を不可避的に対峙する佳作でオススメです。
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