ミーハー女子大生

母性のミーハー女子大生のレビュー・感想・評価

母性(2022年製作の映画)
3.0
【あらすじ】
ある日、女子高生の遺体が発見される。
事故や自殺か、あるいは他殺なのか、その真相は不明だった。
悲劇に至るまでの過程が母・ルミ子(戸田恵梨香)と娘・清佳(永野芽郁)それぞれの視点で明らかになっていくものの、双方の証言は同じ出来事を回想しているにもかかわらず食い違い、母と娘の複雑な関係が浮き彫りになる。

【感想】
湊かなえの原作小説は未読です。
予備知識入れずに鑑賞しましたが…結論、自分にはあまり合わなかったです。
予告と全く違う展開、古臭い演出や台詞、特に大きな抑揚なく進む展開、同じく驚きのない結末、物凄く時間を無駄にした気になりました。

■先に良かったところ
⚪︎出演者の演技は良かったです。
というより、この脚本でよく皆さん頑張ったな…という印象。
ただ、大地真央がシリアスな演技で「愛」がどうたら台詞で言い出すと『そこに愛はあるんか?』って言い始めそうでシュールでしたね… (本編の評価とは関係ないです笑)

主演2人は戸田恵梨香が34歳、永野芽郁が23歳なのに衣装やメイク、演技でだんだん親子に見えてくるのはさすがお二人とも芸達者でした。
永野芽郁も女子校生役がまだギリギリ違和感なく出来るのは地味に凄い。
特に後半の永野芽郁の演技力は素晴らしかったです。
※永野芽郁の泣きの演技って、何故かこっちまでもらい泣きしそうなリアルさがあるんですよね。

⚪︎前半の台所のお弁当を落とすシーンは良かったです。
母親視点では思わず手を滑らせてしまった、幼少期の娘視点では母親が強く床に叩きつけた。
それぞれの視点で描写が異なり、どちらが正解か分からない「自分はこういうつもりだった/こう感じた」という齟齬を現す象徴的なシーンで、演技力も手伝って、良かったです。
※ここからこういう不穏な展開がどんどん発展していくと期待したんですが…

⚪︎映像面も綺麗。
教会や家の内外、墓地や自然風景も含め意匠性が高く、小綺麗な映像に仕上がってます。
ただ、そこまで映像面を推す作品ではないですが…
__________

ここからは個人的に合わなかった箇所。

■冒頭から予告と全然違う!
これは予告編を製作した側が悪いんでしょうが、映画制作側は意見しないのか、もしくは意見しても無視されるのでしょうか?

予告いわく 『一つの事件、女子高生の死亡、事故か自殺か殺人か、母と娘の異なる証言で物語は180度逆転する!』

…いや、そもそも自殺した女子高生も母親も本編中には一切出てこず、戸田恵梨香と永野芽郁とも全く無関係なニュース記事内の死亡事件。
この女子高生の死が事故か自殺か殺人かを紐解いていく話ではなく、真相も明らかにならない。 (劇中少しだけ言及はされますが)

てっきり死亡したのが永野芽郁、母親が戸田恵梨香、殺されたのか自殺したのか事故なのか、どういった経緯で?
母子それぞれの証言の食い違いと、その先にある真相とは!?
…そんな話だと思ってたのに。
ミステリーやサスペンスではなく、本編はただ戸田恵梨香の結婚から出産、成長後の娘・永野芽郁との溝と、母子としての絆の再確認までを描いた物語です。

湊かなえ原作の映画は、『告白』のプロモーション時のノリに味をしめすぎて、何でも ミステリーやサスペンス・衝撃の展開を煽るような派手な広報にするので、良くない。
半ば詐欺ですよねコレ…。 

■演出や台詞が昭和の昼ドラのようで観ててしんどい。
舞台は昭和時代ですが、いくらなんでも演出や台詞まで昭和の昼ドラ臭くて、本当に観ててしんどい。

「~いるのよ」「~だわ」「~かしら」「~わね」みたいな、いかにもドラマの作り物の台詞だけでほぼ全編構成されているので違和感が凄まじく不自然。

高畑淳子のステレオタイプな姑の出番が多くなる後半はもう本当に酷くて、昭和の陰険ドラマをイジってパロってるコントのように感じてしまい、何度か笑いそうになりました…

会話が無い暗い食卓とか嫌味や恫喝とか、もうウンザリ…
演技は皆さん上手いけど、それがかえってシュール。
※地獄のような無言or陰険な食卓なのに、鍋囲んでる日があるんです(笑)
あんな葬式みたいな空気で鍋…
あのテンションのままシメの雑炊までいくのかな?…
なんて余計なこと考えてしまう程に、シュール過ぎました。

最後の戸田恵梨香が永野芽郁にあることを言われ腰を抜かすシーンとか、もう完全にコントのそれですよね…

せめてこれらの違和感は回想編だけならまだ我慢出来ました。 (過去の記憶だからややデフォルメされている…とかで納得出来た)
ただ、本作は全編に渡って不自然な作り物らしいクサい演出や台詞なので、自分みたいな自然な会話劇を好む者にとっては息継ぎする間がなく苦痛な時間でした。

■母と娘の視点について 先に書いたお弁当のシーン、母親視点で行った言動と、娘視点での母親の見え方、それが食い違う演出は面白かったのに、後半にかけてそれがあまり効果的に現れるシーンが無い。

キティちゃんの刺繍の一件はまだ分かるものの、最後の、母視点では娘を抱き締めたつもりが娘視点では首を絞められた…というのは、 視点が違えば見え方が異なるのとは全く違う話で、ただ母親側の「嘘」でしかない訳で、全く効果的ではなかった。

■よく分からなかったところ
娘はあくまでも本心で欲した訳ではなく、それを喜んでくれていた母親(大地真央)ももういない、更に自分の根底にある敬いや献身的な考えを邪魔するので娘への愛情の枯渇がエスカレートした…ということ?

それにしても、10数年どうやって育ててきたのか…
避けては通れないイベントも数多くあるだろうしさすがに高校生の娘に全部お前が台無しにしてるとか、手がベタベタで気持ち悪いとか、言う?
娘側も高校生になってまで学校での出来事を報告したり、どこか精神的に幼い。
劇中での時間経過がすっぽり抜け落ちたままな印象でした。

※何より、あんな地獄のような食卓が毎日・十数年も続いたら誰か発狂してるでしょうよ(笑)

■どこが衝撃の展開だったんだろう…?
『謎』は強いて言えば、家が火事になった時に戸田恵梨香が娘だけを助け出すまでの間に何があったのか、それぐらいなもんでしたが、特に驚くほどの真相はない。

わざわざそんなことしなくても良かったんじゃないの?とか、それ出来る余裕あるなら孫なんとか押し出してやれよ…とか余計な疑問も湧いてしまいました。

※てっきり、幼少期の永野芽郁が火事の時に大地真央を優先して助けようとする戸田恵梨香へのあてつけで大地真央を殺して強制的に自分を愛すよう迫った…みたいなサイコな真相かと思いました。

…悪趣味すぎるか。
でも、それなら成長後の娘が「どうしたら母は自分を愛してくれるか」と 疑問をもつ冒頭の台詞が母親側が異常だというミスリードにしつつ辻褄が合ったような気がしたけどな〜

■何も解決してない
自分は愛されてないと感じ自殺未遂した永野芽郁、その後に戸田恵梨香は間違いを認め、そこから関係性は少しずつ改善していったのであろうが、戸田恵梨香はあの屋敷から解放されないままで介護までやらされる始末、旦那の不倫問題も解決したか不明。

戸田恵梨香目線で観ると結果元を辿れば自分で撒いた種ではあるし、決して主観的には不幸とは言い切れないものの後味があまり良くない締め括りでした。

それすら『母性』で片付けてしまうのだろうか?

更に言えば、何故娘が自殺未遂して自分の誤りを(教会で)認めるんだろう?
元から子供は死んでもまた産めると平気で言う人間だし…
本心では自分は間違ってないと思ってそうな気がする。 (だとしたらやっぱり何も解決してない)

■その他
串入れがあるのに空きジョッキに串を入れるのがわざわざ他人に指摘されるほど悪いことのように思えないのですが…
店員の経験値目線で言わせてもらえば、どうせ引き上げて捨てるし洗うし…。
マナーは悪いけど、永野芽郁の真面目さや育ちを表すにはちょっとズレているように感じました。 (それに対する周りの反応も違和感)

ああいった場面も、もっと一般的な『周りにとって不快で、注意したいけどわざわざしない/出来ない』内容にしていたら良かったかと。
こういう小さな演出含め、作り物っぽさを助長していた気がしました。

__________

まぁ…元凶は大地真央演じる祖母…でしょう。
確かに自分の周りにも親から必要以上に寵愛・溺愛された結果、世間知らずで一人立ちしていないいい歳した女性っています。

それに、自分が愛する者や心酔する者の為なら喜ばせる為・敬う為に何でもしてしまう、その心理も分かる。
更に、その者が望まないであろう(と勝手に解釈した)言動を第三者がとったら当人の範囲を大幅に超えて怒りや嫉妬の感情が沸き立つ人間の嫌な心理も、十分に理解できる。
本作ではそれが祖母・母親・娘の関係性から描写されている訳ですが……

ただ真面目に観るにはしんどいし、 そこまで振り切ってネタ的に笑える訳でもない、 この時代に古臭い演出のドラマ的なモノを2時間観るのは結構キツいものがありました。

ストーリー 2
演出 4
音楽 3
印象 3
独創性 4
関心度 4
総合 3.2

35/2023