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キャシアン・アンドーのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

キャシアン・アンドー(2022年製作のドラマ)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

時代設定はデススターを破壊するヤヴィンの戦い(エピソード4)の5年前。エピソード4の前日譚にあたる「ローグ・ワン」はデススター破壊のためにその弱点を探る設計図を手に入れる話だったが、本作は「ローグ・ワン」でも重要な働きを果たした反乱軍情報部所属の情報将校キャシアン・アンドーを軸に、反乱軍がいかにして立ち上がったかを描いていく。

「ローグ・ワン」を大いに楽しみ、アンドーにも好感を抱いていたが、ジェダイもシスも出てこない一般人のスピンオフはさすがに地味そう。...という理由で今まで観ていなかった自分を痛切に恥じた。どうして誰も教えてくれなかったんだ...!大傑作ではないか。

SWサーガの他作品ともはや比較できないくらいにレベルが全く違う。脚本から撮影から端役の演技、さらには世界観の設定に至るまで手抜かりなし。フラフラとコソ泥稼業をしていたアンドーが反乱軍に参加する過程・その心の変遷を通じて、帝国の抑圧にも慣れてしまった市井の人々がいかにして反乱の炎を心の内に燃やすことができるのか、帝国の厳しい管理・監視体制にあって反乱はどのように組織可能なのかを描き出す。その点においては、強大な権力を前に無力感に苛まされる私たち、もはや抗う気持ちすら失ってしまった現代の我々をメタフォリカルに表現しているとも言え、スターウォーズの世界観を借りながらも普遍性ある人間ドラマとなっている。(組合ストライキの件で1年延期にはなったものの)既にシーズン2も2025年に決まっているそうで、今から楽しみだ。

ショーランナー兼脚本は、今ある「ローグワン」の再構成・再撮影を務めた立役者トニー・ギルロイ。音楽は「ムーンライト」「サクセッション」を手掛け、「セッション」ではデミアン・チャゼルと共同プロデューサーをも務めたニコラス・ブリテル。各エピソードを担当するディレクター陣にも、「ブラック・ミラー」シーズン4・第1話「宇宙船カリスター号」を手掛けたトビー・ヘインズ等の実力派が揃う。(トニー・ギルロイ御大はNY在住のためコロナ禍のため撮影地のイギリスには渡英せず、撮影には英国の才人が集結している印象)

シリーズ構成としては、#1〜3にて過去パート(子供時代@ケナーリ)と現在パート(@モラーナ星系フェリックス)を重ね合わせながら旅立ち・冒険の始まりを描きだす。もはや遠い過去に忘れてしまった冒険が取り戻される3話は激アツの傑作エピソード。廃工場の銃撃シーンやスピーダーでの脱出シーン等も映像表現もフレッシュだ。

続く#4〜6は、帝国の流通におけるハブ惑星にもなっているアルダーニ襲撃をめぐる話。アンドーは傭兵として反乱軍の作戦に参加、帝国に立ち向かう経験をするも、この時点ではあくまで母親と暮らすための金稼ぎが目的。聖地に基地建設を進める帝国軍、その植民地政策には沖縄の辺野古をすら想起させられる。クライマックスでは、タイファイターから逃れながら流星群”目”の間隙を潜り抜ける決死の脱出ミッションが描かれるが、この#6も大傑作回だ。

後半戦におけるシフトチェンジとなる#7を挟んで、#8〜10ではナーキーナ5帝国刑務所からの脱獄を描く。この刑務所のくだりが上手いのは、刑務所の中で象徴化して見せられる暮らしが実はアンドーたち(そして我々)が生きる帝国支配下の日常に他ならないということが明らかになる点にある。ドロイドよりも安い労働力として尊厳は踏み躙られ、命すら帝国の手の中にある。刑期はまやかしで一生出られないことが分かった時に、我々は立ち上がる。道はひとつだ(One Way Out)。このシーンがとりわけ美しいのは舞台設定の縦構造にもある。刑務所が水力発電所も兼ねており、爆流は上から下へと流れ落ちる。囚人たちはまるでその流れに抗うかのように、上を目指すのだ。

※刑務所作業でアンドーたちが作っていたのはデススターの部品だったことがシーズン最後に判明。これも熱い展開。

そして怒涛の#11, 12ではフェリックスに舞台を戻して、アンドー母の葬儀を機に反乱の狼煙がついに上がることになる。

書いていたらキリがないのだが、帝国側がどこかで見覚えのあるような官僚組織で、そこで働く人たちの苦労をすら描かれている点も素晴らしい。帝国領域司令部では四半期レビューで犯罪率を低く報告したいがために、殺しを事故として片付けようとしたり、下の奴らは働いているフリをしているだけでやる気ある中間管理職が苦労するなんてのも他人事ではない。シリル・カーン捜査主任(カイル・ソラー)が絶望する#3の表情は忘れ難い。ISBのデドラ・ミーロも強烈(宇宙人の断末魔を聴かせる拷問...!)。顔も演技も凄まじい人たちが揃いに揃っている。

最近は悪役が多いステラン・スカルスガルドを反乱軍側に配置するキャスティングも見事としか言いようがない。アルダーニ襲撃を何としても成功させるその気迫、ソー・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)に対面しても押し負けない重量感。反体制派の闘士アント・クリーガーを犠牲にしても、反乱軍の組織化を優先する冷徹さを取っても彼以外をこの役に考えるのは難しい。#10のラストにて、ISBに潜入している反乱軍スパイのロニがもうこんな生活やめたいと泣き言を吐き、ルーセン(ステラン)に対して「一体あんたは何を犠牲にしたんだ?」と問いかけるシーンがあるが、ものすごい剣幕で「全てだ!」とロニが怒られていて本当に爆笑した。#11でもステランは大活躍。ソー・ゲレラとの対話から戻る途中、パトロール艦に捕まり、マキビシミサイルで牽引ビームを破壊した上に、舷側に設置されたレーザーソードの回転によって追跡するタイファイターを破壊する場面だが、ここは今後の伏線にもなるかもと楽しみでもある。

シリルの母に「哀れなるものたち」の娼館の女主人。反乱軍のヴェル(モン・モスマの妹)もどこかで見たことあるなと思ったら、Game of ThronesのThe Waif (Faceless Manの一番弟子?)だった。シリルと動くことになる分隊長ライナスも好き。みんな英語で喋っているものの訛りがあったり、アクセントが違ったりするのも個人的には好きな作りです。
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