まさみ

昭和元禄落語心中のまさみのレビュー・感想・評価

昭和元禄落語心中(2016年製作のアニメ)
4.5
YouTubeで無料公開してたので視聴。面白かった。落語をテーマにしたヒューマンドラマで、菊比古の落語家としての成長や助六との友情、その終わりを描く。

声優さんの話芸がキレッキレ。落語がちゃんと聞いてて面白い芸として成立してる、演技力がすごい。
もとより身振り手振り、扇子を色んな道具に見立て一人何役も演じ分け、何百本も異なる落語を暗記・披露するときて、落語家の生き様のすさまじさを思い知らされる。

持たざる者から持てる者への嫉妬や葛藤も描かれ、前半~中盤は菊比彦に感情移入。
原作者の雲田はるこはBL作家であり、菊比古と助六の絡みはぶっちゃけBLっぽい。
ギリギリブロマンスの範囲にはおさまってるけど、みよ吉さえ容易に割り込めない濃密な絆に魅せられる。

一人称「アタシ」の菊比古の毒舌美人っぷりが際立っていて、話芸の達者と相俟って心を奪われる。芝居の時の艶やかな女装は必見!

恋愛面では菊比古・みよ吉・助六の三角関係が軸になるんだが、みよ吉→菊比古←助六に見えるのが話を複雑にしてる。
みよ吉は男女の色欲的な愛、助六はブラザーフッド的な愛。両者とも強く菊比古に惹かれながら、それ故に自滅し堕ちていくのがやるせない。

みよ吉も助六も客観的には救いのないダメ人間。恩人の売り上げを持ち逃げし、助六に至っては岡山に逃げた後働かず、酒を飲んじゃ暴れる繰り返し。みよ吉はみよ吉で幼い娘をほっぽってしばしば男を作り家出、ぶっちゃけ二人とも親失格。

助六の荒れようは落語を禁じられた腹いせもあったんだろうけど、昇進の時にさんざん無礼な仕打ちしたんだから、その時点で落語と縁切って妻子を養うおとこ気を見せてほしかった。

アニメじゃどうしても苦労人で常識人な菊比古に肩入れしてしまうので、さんざん親友や師匠、周囲の人にチャンスを与えられておきながら、破天荒な振る舞いでそれを潰しまくった助六に苦い顔にならざるえないというか。ばっさり言うと甘えてる。
いくら芸人は無頼が好まれるといったって、尻拭いする方はたまったもんじゃない。

終盤三話は怒涛の展開。
小夏の母への言動は辛辣だが、母親が体を売ったり男の酌の相手をしてるから蔑んでるんじゃないと思った。

彼女が許せないのは自分と父親を捨てた事。

てか働かない旦那の分も体を張って稼いでるにもかかわらず実の娘に「汚らわしい」と吐き捨てられるんじゃさすがにみよ吉が哀れ、そりゃぐれるよ。

アニメの描写だけ見たらみよ吉がヘイト集めるのかな。自分も弱い、愚かな女だなあ……
とは思うものの、彼女の発言「助六が働かず酔って暴れた」が本当なら妻にも手を上げたのかな。「殺してやる!」って子供の前で叫ぶほど憎むのも筋が通るし。

その描写が省かれてるからこそみよ吉のエゴイストっぷりが際立つのを踏まえれば、あんまりフェアな見方じゃない。
小夏に懐かれてるあたり、娘に手を上げなかったっぽいのが救い。

主な視点人物が菊比彦なんで、駆け落ち後にみよ吉と助六が過ごした五年の出来事は視聴者も知りようないんだよね……
欲を言うならそこをダイジェストでもいいから見せてほしかった。そうしたらクライマックスで、助六が妻子を選んだ理由もすとんと腑に落ちた。

個人的には助六の一番は落語だと思ってたんで、迷うことなくみよ吉を選んだのがやや唐突に感じられた。
「芝浜」の出来に納得して、この落語を披露できたなら心残りないと思ったのかも。

ずっと人の為に落語をしてきた助六が、初めて自分のために、そして家族のために演じた落語に満足して引退を選んだなら、美しい幕引きといえなくもない。

けどなあ……。

タイトルがミスリードになってるけど心中じゃなく事故。ともあれ、菊比古があの事件をきっかけに落語と心中する決意を固めたのは否定できない。

成長後の小夏を恩知らずって叩く向きもあるが、自分はそこまで憎めなかった。

まず崩壊家庭で育った幼少期を考慮してほしい。
「助六の血を絶やしたくない」から子供を作ったととれる発言だが、それだけってこともない。きっと。人間はそんな単純じゃない。
菊比古・助六と三人仲良く過ごした疑似家族の記憶があるなら、心の底では家庭に憧れてたんじゃないかな。

父親と母親、シーンによってどちら似か印象が変わる小夏のキャラデザは本当に秀逸。
最初は助六に似てるなーと思ったけど、情念的な所は母親譲りだし、あの二人の娘ならこうなるだろうなって顔立ちで納得させられた。
団子鼻のおてんば娘がシュッとした美人になるのは「え!?」となったが……鼻の形変わってるじゃん!

第一シーズンの最終回がとんでもない終わり方をしたので第二シーズンを期待したい。
原作完結してるし……!
まさみ

まさみ